1998年から9年間にわたり、営業改革に取り組んでいる百貨店大手の大丸。同社は、販売業務を付加価値を生み出すものとそうでないものに分けて戦略的に社員を配置するなど、一連の営業改革によって販売体制を強化してきた(日経情報ストラテジー8月号の「スペシャルリポート」で詳報)。これらの改革の成果を結集させたのが、2003年に出店した札幌店である。開業1年目に早くも単年黒字を達成し、3年目で店舗開発費などを含めて累積赤字を一掃した。2007年2月期の売上高は480億円。今期は500億円を見込んでいる。札幌地区の地域一番店である丸井今井札幌本店が563億8500万円。同店は年々減少傾向にあり、首位の背中が見えるところまできた。

 札幌店が早期に黒字化できた理由は2つある。1つは、一連の営業改革による成果によって販管費を削減できたこと。もう1つが、固定客を早期に作って収益基盤とする戦略が効いたことだ。

 後者の柱となったのが、2003年に導入したポイントカード「大丸さっぽろカード」である。札幌店で発行したカードは、他店とは異なる特徴がある。当時大丸の他店では、クレジットカードしか発行しておらず、現金による購買にはポイントを付与していなかった。これに対して、札幌店のカードは現金購買でもポイントを付与することにした。

 クレジットカードの利用履歴を分析することで、顧客の動向をつかみ固定客増やすのが狙いだった。2003年にD-CISとよぶ顧客管理システムも稼動するなど環境を整えてきた。そのため、現金で支払ってもポイントを付与するポイントカードの導入には消極的だった。

 札幌店は他店と置かれた環境が異なっていた。「なじみのない百貨店のクレジットカードなど作ってもらえるはずがない」(札幌店の清原克彦営業企画CS推進部長)からだ。早期に売り上げの基盤となる固定客を増やしたい同店にとって、顧客の動向を知る道具は不可欠。本社に提案して認めてもらい、同社としては初めてポイントカードを発行した。これが奏功し、3年で40万枚ものカードを発行。他店ともそん色のない情報を集められる規模になった。

 現金ポイントカード導入で情報がたまり出したため、本社の顧客管理システム「D-CIS」で購買動向を分析できる環境が整った。D-CISは売り場ごとの上位顧客の把握など、こと細かく把握できる仕組み。CRMマスターとよぶ社内資格を有する責任者(マネジャー)が、自分の担当する売り場の分析を行う。具体的には、顧客を年間の購買金額によって10段階に分類。「前年上位の顧客がどう推移しているのか」といった対比の動向を分析する。これによって、顧客の離反を防止するための対策を立案する。

 こうした体制が定着するまでには壁もあった。担当する売り場の顧客と関連のありそうなほかの売り場の情報を活用したがる声が出たのだ。「成果の出ない社員ほど買い回りを調べたい」と言ってきたのだが、断固として認めなかった。「現場を強くするために導入したもので、買い回りを調べるのは専門部署がすること」(営業企画部顧客政策担当の梅村謙一郎マネジャー)だと考えていた。その代わり、他店で同じ分野を担当する責任者を半期に1度集めて成功事例を共有する場を作った。「まずはまねから始めてよい」と試行錯誤させる機会を与えた。これらの取り組みが、2006年度過去最高益を更新した大丸の好業績を支えている。