KDDIと沖縄セルラー電話は今後、多様なライフスタイルを支援する携帯電話の使い方を積極提案するプロモーション戦略にシフト。例えば、防水機能とワンセグ機能を装備する携帯電話機を発売し、「お風呂テレビ」としてアピール
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KDDIの重野卓コンシューマ商品企画本部プロダクト企画部長。手にしているのは、auブランドの携帯電話機の2007年夏モデルの1つ「W53SA」[画像のクリックで拡大表示]

 利用者の年間純増数で4年連続トップを快走する「au(エーユー)」ブランドの携帯電話サービス。そのマーケティング手法が転換期を迎えた。同サービスを提供するKDDIと沖縄セルラー電話は、消費者の多様なライフスタイルに密着したプロモーション戦略を本格展開し始めた。インテリアやファッションの会社と積極的に協業したり、消費者に馴染みの深い家電製品ブランドを全面に打ち出す携帯電話機を市場に複数投入したりするのだ。6~8月に順次発売する「夏モデル」15機種で実践する。

 5月22日に開催された夏モデルの発表会の席では、KDDIの高橋誠・執行役員コンシューマ事業統轄本部長が「(従来のように新機能を強調するのではなく)今後はライフスタイルを支援する携帯電話サービスを提供していきたい」と強調した。この発表会場には、例えばインテリアショップ「Francfranc(フランフラン)」で知られるBALS(バルス)が出展。浴室回りのインテリアや小物と一緒に、防水機能を持つワンセグ携帯電話機の新製品が展示された。お風呂にのんびり入りながらテレビを見ませんか、という女性へのライフスタイルの提案だ。

 重野卓コンシューマ商品企画本部プロダクト企画部長は、発表会での高橋執行役員の言葉をこう補足する。「今までは当社も競合他社も、『今度の携帯電話にはこんな機能が付きました。高速ダウンロードが可能になりました。いいでしょう』といったアピールをしていた。しかし大半の人が携帯電話を所有する今、そんなメッセージでは心に響かないと気づいた」と補足する。

 そこでまず、「普通の人が携帯電話に興味を持つにはどうしたらいいか」という視点に立ち返ってみた。その上で商品企画本部において半年以上議論した結果、「美容やファッション、ダイエットなど人はいろんなこだわりを持って生きている。そこに携帯電話のうまい使い方を絡められないか。つまりライフスタイルとの連携だ。その結果、お客様と携帯電話が触れ合う接点が増える」(重野氏)という答えに行き着いたのである。

ファッションやファニチャーのブランドと連携


auブランドの携帯電話機の2007年夏モデル。計15機種が6月~8月に順次発売される。7機種がワンセグに対応する
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 KDDIと沖縄セルラー電話は、夏モデルの発売に合わせて「mobile fashion」という企画を6月14日から実行に移し出した。「IENA」や「aquagirl」や「nano・universe」など計42のファッションやインテリアのブランドと協業し、携帯電話ケースやストラップ、着せ替えパネルなどのオリジナルグッズを専用の携帯電話サイト「auショッピングモール」で販売するのだ。

 併せて、「ABAHOUSE ラストワード 原宿店」や「Barrault 渋谷」など都内の11店のブランドショップでも各ブランドのオリジナルグッズを携帯電話機と一緒に展示し、販売する。 
 
 今回の協業先は、KDDIのコンテンツメディア本部ECビジネス部が中心になって開拓した。同部はもともとauショッピングモールを運用していたため、ファッション関係の会社との付き合いが多数あったからだ。「発売前の携帯電話機をたくさん持参し、1件1件まわって『携帯電話でライフスタイルを支援する』というコンセプトを説明し、賛同を得た」(重野氏)

 当初の予定よりも多くのブランドと協業したこともあって、ECビジネス部と商品企画本部の間の各種情報のやり取りは、リアルの会議だけではなくイントラネット上の電子会議も使って行われた。

auブランドを脇役にしたモデルも提供

 携帯電話機のプロモーション戦略の従来の常識では、電話機メーカーが主役を演じることはまれだ。通常は携帯電話サービス会社の社名やロゴを電話機の目立つ位置に記載し、その電話機を製造したメーカーの社名を目にすることはほとんどない。今回の夏モデルには、この主従関係を逆転させた製品が2機種含まれている。

 1つはソニー・エリクソン・モバイルコミュニーションズ製の「W52S」、もう1つはカシオ計算機製の「W53CA」だ。音楽プレーヤー機能が充実した前者は「WALKMAN(ウォークマン)ケータイ」として、500万画素のデジタルカメラ機能を装備した後者は「EXILIM(エクシリム)ケータイ」として宣伝される。

 ウォークマンケータイと宣伝される製品は、KDDIにとってこれが第2弾となる。第1弾製品よりも音楽機能は強化され、また、スライド式ボディーの背面に「Sony Ericsson」「WALKMAN」といった文字とロゴが躍る。WALKMANロゴは音楽に合わせて点滅する凝りようだ。FMトランスミッターを内蔵しているので、本体で再生している音楽をFM波を使って自動車のカーコンポに転送することができる。

 EXILIMケータイのほうは、閉じた状態の背面だけ見ると、デジタルカメラと見間違うほどの仕上がり。「CASIO」「EXILIM」「5.1 MEGA PIXELS」という3つの目立つロゴや文字が刻まれているのに加えて、デジカメ機能のレンズまわりが本格的な作りとなっている。レンズの焦点距離は28mmと広角側に強く、デジカメ愛好家に人気のリコー製デジカメ「GR DIGITAL」と同じ焦点距離となっている。EXILIMというブランド名は、カシオ計算機のデジカメ製品が長年利用してきたもの。
 
 「メーカーは、その品質基準を満たさない製品にEXILIMやWALKMANというブランド名を名乗らせない。そんなこだわりが細かな説明をしなくても消費者に伝わるのが、今回の2製品の良さ。携帯電話機とデジカメや音楽プレーヤーを一緒に持ち歩かなくて済む」と重野氏はいう。いくらライフスタイルを支援するといっても、消費者のライフスタイルは実に多彩で、どこに最大公約数を置くかが戦略上重要になる。プロモーション予算には限度があるため、こうしたもともとのブランド力が高い製品もいまのKDDIにとって欠かせない存在である。