ビックカメラの湯本善之・取締役総務本部長兼人事部長(写真右)と木村健・人事部主任
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 家電量販店大手のビックカメラは、新卒採用に細かな職種別採用制度を導入した。1年前の2006年春の採用活動から採り入れており、今春入社の新人が制度適用第1号となった。「当社のイメージは販売職種。実際には人事も企画もいろいろある。多様な仕事の選択肢があることを学生に知ってもらい、幅広い人材を集めたい」と湯本善之・取締役総務本部長兼人事部長は狙いを語る。大手家電量販店の中で同制度を導入しているのは同社だけ。ヤマダ電機やヨドバシカメラでは原則、店舗での販売を担当するということ以外、入社前には分からない採用形態としている。

 ビックカメラに今春入社する新入社員511人のうち約100人が、職種別採用制度を使った募集案内を見て応募してきた。それ以外の400人強は従来通りの総合職採用である。この職種別採用制度は、本社業務を担当する「ビジネスエキスパート」の9職種と、店舗での販売を担う「販売スペシャリスト」の9職種に細分されている。

 ビジネスエキスパートの内訳は、企画・広報、経理、人事、バイヤー、ネットショップ、情報システム、法務、アフターメンテナンス、物流。販売スペシャリストは、パソコン、スポーツ用品、カメラ、ビジュアル(映像機器)、オーディオ(音響機器)、家電、携帯電話など通信、めがね・コンタクトレンズ、酒である。

短期間で即戦力に育てるのにも有効

 職種別採用制度は、日本国内においても外資系企業ではよくある。例えば、日用品世界大手の米P&Gの日本法人では約15年前から同制度を導入しており、大別すると営業統轄、マーケティング、コンシューマ・アンド・マーケットナレッジ(市場を調査・分析し、各部に戦略提言)、経営管理、生産統括、研究開発、情報システムの7職種がある。

 職種別採用制度には、自分のキャリアを積極的に自分で描いていこうとする人材を集めやすいという特徴がある。入社後に担当したい仕事が明確な学生であれば、同制度を使って入社したほうが、入社後も高いモチベーションを維持しやすいだろう。

 もちろん、明確な仕事のイメージを描いていないものの、その会社自体に強い関心を持ち、その中で様々な仕事に挑戦したいと希望する学生も多い。こちらのニーズには、ビックカメラは従来通りの総合職採用で応えている。

 職種別採用制度と総合職採用制度のどちらを利用して同社に応募してきたにしろ、自分の意志で自分の道を選んだことに違いはなく、仕事に対する入社前のイメージが裏切られる可能性は小さくなる。その結果、少なくとも短期的には、新入社員のモチベーションを従来の採用の仕組みよりも万遍なく高めることを期待できる。やる気が高いほうが、当然、短い期間で即戦力に育ちやすい。大学や専門学校での専攻、特技、経験を生かしやすいメリットもある。

 ビックカメラで今回の新制度の設計に携わった人事部の木村健・主任は、「今回の19職種は、専門性の高さ、学生の関心度、当社の組織体系などを考慮して決めた」と語る。昨春の採用手順は次のように進めた。まず学生に筆記試験を受けてもらい、合格者を1次面接に進めた。この段階では希望職種は問わない。2次面接の際に初めて希望職種を聞き、総合職採用を希望した者の最終合否をここで決まる。職種別採用を希望した者だけ3次面接に進ませ、希望部門の責任者が面談する。

 木村主任は新制度の反響をこう分析する。「当社に興味を持ってくれる人が増え、応募数が1.3倍になった。単に販売好き・接客好きといった人材だけでなく、ITに強い・ネットショッピングを手がけたいなど人材の多様化が進んだと感じる。当社は小売業なので、残念ながら採用では縁がなくても来店してくれる人がいる。だから、仕事への思いをきっちり言えるほうが、気持ちよくお付き合いを続けやすいと思う」

 販売スペシャリストには専門性の徹底的な追及を期待する。「例えばオーディオ機器を突き詰めて行くと、普通の人とは見える世界が違ってくる。当社は『専門性の追求』を重要な経営戦略の1つに掲げている」(湯本取締役)。また、ビックカメラは会社が年々大きくなっているし、世間のコンプライアンスに対する意識も強まっているので、「管理部門の各部署にも専門性の高い人材が必要だ」(同)という。

 ただし、ビックカメラの今回の取り組みはまだ試行錯誤を重ねる段階。同制度を利用した第1号社員たちはまだ働き始めたばかりだ。販売スペシャリストは既に希望した商品を扱う現場に配属されており、ビジネスエキスパートは3~6カ月の店舗研修の真っ直中にある。職種別採用制度を使って入社した社員のキャリアプランをどう描けるようにすべきかなど、細かな取り決めはまだ決まっていない。