ITをフル活用して棚卸し作業の精度を維持

 金額棚卸しサービスで使う端末は特殊なものだ。米ナショナル・データ・コンピュータ製の端末で、エイジスが日本での独占利用契約を結んでいる。ブラインドタッチが容易な巨大なキーボードを装備した高機能電卓のような機能を持つ。ベテランスタッフは、片手でカウント作業をしながら、もう片方の手で腰にぶらさげた端末に数量情報と値札情報を目にも止まらぬ早さで次々と入力。端末は高速入力に対応できる処理能力を持つ。

 さらにこの端末には、異常値を入力できないようにする機能もある。例えばスナック菓子が陳列された棚には、1000円を超す商品は存在しないのが普通。そこで、その棚のカウント作業を担当するクルーの端末には1000円という金額情報を入力できないように設定するのだ。

 AISシステムのほうは、棚別に商品の売値の上限値と下限値を設定して、端末への入力ミスによる異常値を自動検出できる機能がある。また前回と今回の棚卸し作業において同じ棚で総額が大きく異なる場合、アラームを出せるように設定できる。これらはAISシステムが持つ多数の精度チェック機能の一例にすぎない。

●作業端末などに、カウントミスを防ぐITの仕掛けがある
●作業端末などに、カウントミスを防ぐITの仕掛けがある

 クルーの大半は時間給のアルバイトだが、事前に1日かけてみっちりと研修を受けさせてから現場に送り出す。こうした新人クルーには初出勤から最大6日間、トレーナーが横に付いて実地指導もする。この事前研修では、コンビニやホームセンター、書店、スーパー、100円ショップなど、小売店の業態に分けてカウントスキルを教える。

適材適所で現場で無駄な人員をなくす

 研修ではさらに、棚卸し作業を正確に実施することの重要性について講義する。「この仕事がどれだけ社会的に意義があり、顧客企業に喜ばれるかを伝え、誇りを持ってもらう。それが仕事へのモチベーションと作業の正確性を高める」と斎藤社長は言い切る。

 また、アルバイトの時給は作業能力に応じて数十段階に細かく設定。さらに2年に1回の頻度で、全国数十の拠点から数人ずつクルーを本社に集め、カウントスキルを競うコンテストを開いている。「出場者のスキルは、『人ってここまでできるんだ』と思わず感嘆するほど。参加者は『私たちはこんなにすごい』と誇りを持てる」(斎藤社長)

 エイジスは2006年度、クルーの効率性な配置を実現する「クルーイング」の精度向上を図った。同社は約1800社の小売りチェーンの棚卸し作業を受託しているが、過去の作業データを分析することによって、これから作業をする店舗にどのくらいの数の商品があるかを予測。さらに数千人いるクルー個々のカウント能力を、過去の作業履歴から算出したのである。こうして、どのくらいのカウント能力を持つクルーをどう組み合わせて複数の店舗に配置したらいいかを決めるようにしたのだ。その結果、顧客満足度を損なうことなく人件費を抑制できる。さらに、1800社の平均的な店舗の作業手順をすべてマニュアル化した。

●作業履歴から店頭商品数を予測し、適した人員を配置
●作業履歴から店頭商品数を予測し、適した人員を配置

 こうした作業のIT(情報技術)化とマニュアル化は、エイジスのビジネスモデルを支える生命線だ。新人クルーをいかに短期間で熟練化できるかが、収益性に大きく寄与する。エイジスは小売店からの棚卸し作業依頼は基本的に断らないことにしている。当然、常に十分な数のクルーを効率的に用意できなければならない。

 実際、エイジスは一度痛い目に遭っている。「1990年代後半に一度だけ、中間決算が赤字になったことがある。大型店に積極的に営業を仕掛け、クルーを一気に増やし過ぎたからだ。新人の比率が高くなり過ぎ、作業効率が落ちた。現場でベテランが新人から質問攻めに会ったり、ミスの修正に翻弄うされた」と斎藤社長は苦笑する。

 斎藤社長は今後さらに、顧客各社の店舗の在庫量の予測精度を高め、より適切な人員配置を実現できるようにする考えである。

商習慣を変えるくらいの意気込みで

 2006年度は新たに百貨店と家電量販店の市場を開拓した。この業態は、コンビニエンスストアなどとは商品の陳列方法が異なる。ケースに入っていたり、へたに動かすと壊れてしまう商品が多い。そこで当社の営業担当者が「事前にこういう準備さえしていただければ、短時間で棚卸し作業を代行できます」と提案していった。

 いまこの市場には強力なライバルがいない。競合のうち企業規模が大きいところでも売上高は当社の数分の1だ。当社が急成長できたのは、コンビニの出店ラッシュに乗れたからだった。コンビニは大半がフランチャイズチェーンなので、正確なロイヤルティーを算出するためにも、第三者に店頭在庫の棚卸しを頼みたかったのだ。

 提携関係にある米マスコリーノインベントリサービスから様々なノウハウを移植しているのも、当社の強みだ。米国は棚卸しサービスの発祥の地。学べる点が多い。私自身も1年間マスコリーノに勤務し、創業者の「米国のビジネスモデルをできるだけそのまま日本に持っていくべきである」という考えに共感した。例えばマスコリーノは作業が早いのでそれを学ぼうとすると、「精度が低いから早い」と反論する者がいる。だが大切なのは早い理由をきちんと学ぶこと。まねできない理由を挙げても意味はない。日本の商習慣を変えてやるくらいの意気込みが大切だ。(談)

斎藤 昭生 社長   斎藤 昭生 社長
さいとうあきお氏●1967年生まれ。米ボストン大学で94年にMBA(経営学修士)を取得。米マスコリーノに1年勤務した後、95年2月にエイジスに入社。2006年4月に専務から社長へ