お知らせ:
既に佐々木氏はユカマテリアルの代表取締役を退任しています。

 ユカマテリアル(本社:東京都品川区)は,水泳プールのラダーハンドルや排水金具,共同溝や下水道管の補修セメント,トンネルの止水セメントなどを手がけているメーカーだ。同社は2006年9月,現在のオフィスへ移転したのを機に電話システムを刷新した。変更点は,IP-PBXを導入して内線電話をIP化したこと。採用したIP-PBXは,オープンソースのIP-PBXソフト「Asterisk」をベースにしたモバイル・テクニカのアプライアンス「mCube」である。

IP化するが「外線にISDN」は譲れぬ

 ユカマテリアルはオフィスの移転前,ビジネスホンを中心とする電話システムを構築していた(図1)。とはいうものの,手持ちの機器は少なく,“ビジネスホン版のIPセントレックス”のような運用サービスを使っていたという。ビジネスホン主装置とTA(ターミナル・アダプタ)は,NTTの局舎内に置いていた。ユカマテリアルの社内にあった機器は電話だけ。これらの電話はNTT局舎内に置いたISDN用ターミナル・アダプタ経由で3本のISDN(INS64)回線につながれていた。

図1●移転を機に電話システムの置き換えを決めたユカマテリアルが挙げた要件
図1●移転を機に電話システムの置き換えを決めたユカマテリアルが挙げた要件
IP電話への移行やインターネット接続環境の高度化を目指す一方で,安定して使えるISDNを電話用に残し電話機の使い勝手も変わらないことを望んだ。低予算も要件に含まれる。

 同社には,新オフィスの電話システムを設計するに当たって,いくつかの譲れない条件があった。その一つは,電話が安定して使えることだった。部品を受注生産する場合に,図面をもらって電話で打ち合わせをしたのち製作に移るプロセスを経ることがあるなど,同社の社員は比較的長時間に渡って電話を使うケースが多いからである。「万が一のときに,通話できなくなっていては困る」と話す佐々木武彦代表取締役に,安さと安定のどちらを重要視するかを質問すると,間髪入れず「安定している方だ」という答えが返ってきた

 同社は,IP電話サービスに障害が発生したトラブルを見て,IP電話の安定性に不安を感じていたという。そこで,リニューアルしてもISDNをそのまま使い続ける道を選択した。

 電話を従来と同じような方法で使えることも重視した。例えば,パークボタンを使った保留など,ビジネスホンの電話機と同じ使い方ができるようにしたいと考えた。

低コストも刷新の条件だった

 従来の電話の安定性や使い勝手を重視する一方で,「IP電話はコストが安くなると聞いたので再構築を考えた」とする佐々木代表取締役にとって,コストを低く抑えることも,リニューアルの目的の一つだった。電話の月額ランニング・コストを3万円以内に収めることを要件に挙げたという。

 電話とは別に,PCのインターネット接続にも課題があった。移転前のオフィスではダイヤルアップ接続を使っており,これを高速化させる必要性を感じていたという。これらの条件をつけた電話システムのリプレース要望を,同社は以前から付き合いがあったインテグレータの三菱電機インフォメーションテクノロジー(MDIT)に出した。

 MDITでこの案件を担当したIT流通部IT営業課の阿部裕志・課長代理は,「IP化でランニング・コストを減らす提案が必要。ただし電話の品質低下は許されないだろう」と考えた。そこでMDITは,IP-PBXとしてINS接続に対応可能なmCube/vCubeを選び,これにつなぐ電話機にはサクサのIP NetPhone SXを組み合わせる構成を考えた(図2)。

図2●ユカマテリアルの現在のネットワーク構成
図2●ユカマテリアルの現在のネットワーク構成
内線をIP化する一方で,ゲートウエイ装置「vCube」を置くことでISDN接続環境を継承した。Bフレッツも導入し,ひかり電話を使える状態にしているものの,実際の活用については慎重に取り組む意向である。
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ニーズに見合った製品を選択

 mCubeはAsteriskベースのIP-PBX,vCubeはmCubeを外線接続するためのゲートウエイ装置である。mCubeとvCubeには,ベースとなったIP-PBX製品「xCube」があり,これにはオプションでINS64に対応したBRI(basic rate interface)カードがある。ただし対応するのは最大で2回線,4チャンネルまで。ユカマテリアルは移転前に使っていた3本のINS64回線をすべて継続使用することを望んだため,1台で最大12チャネルを使えるvCubeが必要だった。

 サクサのIP NetPhone SXは,ラインキーを備える固定型のIP電話機で,mCubeと組み合わせてビジネスホン電話機に近い使い勝手を実現できる。MDITは,これらの機器の購入費用(初期投資)とランニング・コスト,LAN工事を月当たりの費用に馴らして3万円以内に抑えられると判断したが,製品選択の過程でvCubeとmCubeが購入年度のサポート費用を含む価格体系になっていることまで考慮したという。

ひかり電話の利用には慎重姿勢

 mCube/vCube導入による内線のIP化は,実は電話システムを段階的に移行していく第一ステップという位置づけである。次のステップとして考えているのは,外線をIP電話サービスに変えていくことだ。現在のオフィスには,ISDNとは別にBフレッツ ビジネスタイプを1回線引き込んである。これによりインターネット接続が高速化した。将来的にはIP電話サービスを使えるようにする計画だ。

 同社はIP電話サービス「ひかり電話」の番号を取得したものの,まだ利用していない。佐々木代表取締役は「ひかり電話の利用にはまだ多少不安を感じる。コストがどのくらいかかるか見えていない部分もある。IP電話については,もう少し利点を勉強してから移行したい」と慎重な姿勢を見せている。