システム構築プロジェクトを指揮した池田裕氏(左)と山本宗明IT管理室長
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 アデランスが20億円を投じた新統合情報システム「SCRUM」が、6月1日に稼働を始めた。名称は、新システム稼働に取り組んだプロジェクトチームの面々が社内の様々な部門から集まっていたため、「一致団結して困難に取り組もう」という意を込めてラグビー用語から取った。

 このシステムは、顧客情報や社内情報などを管理するもの。同社がこのシステム構築の検討に入ったのは2002年9月。1999年末から稼働していた前システムについての不満が現場から上がっていたからだ。5カ月費やしてシステムと業務の両面の評価・検証に当たったが、「まずは業務改善を徹底的に行い、業務フローから無駄を取り除いてスリムにしてからシステムを導入しよう」(システム構築プロジェクトのリーダー役の池田裕氏)という結論に至った。

 そこで2003年5月に立ち上がったのが「業務改革プロジェクト」だ。モデル店として選ばれた12店舗で1年かけて業務改善の方向性を模索した。メンバーは先の検証・評価の作業に携わった11人にモデル店の店長らが加わり28人。数週間にもわたりモデル店舗に張り付きつぶさに業務を調査し、コールセンターや営業店舗など各顧客接点で重複していた作業などを排除していった。

慎重に行ったベンダーの選定

 1年間におよぶ業務の見直しを経てプロジェクトの名称は「業務改革プロジェクト」から「システム構築プロジェクト」に変更。メンバーは2004年7月からシステムの構築に向けて具体的に動き出した。まずは大手ベンダー5社に新システムに関する提案を依頼した。ベンダーの担当者には時間をかけてアデランスの業務についてのヒアリングをしてもらい、議論を重ねたうえで提案してもらった。

 この際、パートナーとして重視したのは「人」だ。「われわれの前でプレゼンテーションする担当者が、実際の構築に携わってくれるマネジャーやリーダーなのか確認した」(池田氏)。

 システムに関する提案内容は事前に送ってもらい、アデランスのプロジェクトメンバーは熟読しておいた。そして厳しい質問を投げかけた際に明確な回答してくれるかを観察した。プレゼンするマネジャーがよどみなく答えるのか、同行した技術に詳しい社員に回答を任せるのか。プレゼン当日には説明するベンダーの担当者のビデオ撮影までした。「こちらにとっては絶対に失敗できないシステム。ITプロジェクトの成否はマネジャーやリーダーに拠る部分が大きい」と池田氏は話す。
 
 こうした選考作業を経て2005年1月に富士通がプロジェクトのパートナーへと選ばれた。かつらという特殊な製品を扱うためにパッケージ製品をそのまま使うことはできない。結局、カスタマイズしても難しいと判断。まったく新しいシステムを作り出すことになった。様々な商品・サービスに柔軟に対応できるシステムを目指した。新システムを頻繁に活用するのは、本社ではなく、営業現場。コールセンターや相談室、店舗など複数の顧客接点での使い勝手の良さにこだわった。

手のひら静脈認証システムで情報保護

 完成した新システムのSCRUMには見込み客を含めて160万に及ぶ顧客情報が一元化されている。従来、紙で保管されていた情報は電子化され、異なる部門で重複して管理されていた情報も名寄せされた。SCRUMではテレビコマーシャルの効果測定などの情報分析も簡単に行えるようになっている。今後は経営企画や宣伝企画などの部隊が、様々な切り口で情報の分析に利用する予定だ。

 例えば、かつて取り引きがあったものの離れてしまった顧客へのフォローにも利用できる。顧客に相対するのが店舗の社員だけでは、商品に不満がなくても店舗の社員との相性が良くなくてアデランスから去ってしまうこともある。こうしたかつての顧客をSCRUMで一元管理しているDWH(データウエアハウス)で抽出し、本社からフォローする電話をかける取り組みも検討中だ。顧客の情報が店舗に分散していては難しかった。「フォローコールを通じて現場の生の声を拾いたい。店舗にはいえないサービスについての不満も聞くことができる」(池田氏)。

 新システムでは、個人情報保護の強化も図っている。手のひら静脈認証システムを導入して担当者しか閲覧できない仕組みを採用した。SCRUMには生産や人事といったCRM以外のシステムも盛り込まれている。山本宗明IT管理室長は、「新システムの導入は完了したが、単なる通過点に過ぎない。本来の目的は、お客様視点に立ったサービスを提供できる環境を整えることだ」と話す。アデランスが巨大な新システムとともに攻勢に出る。