小林製薬の吉田 悟・衛生スキンケアグループグループマネージャー(左)と、今年4月から「ホットクレンジングジェル」のブランドマネジャーを引き継いだ林 康雄氏
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 「熱さまシート」などユニークな機能と名前を持つヒット商品を多数抱える小林製薬が、メイク落とし市場に新規参入し、ヒット商品を生み出した。3月23日発売の「ホットクレンジングジェル」を4月末までに20万本以上出荷し、年間売り上げ目標額である4億5000万円の3分の1を達成。現在も順調に出荷数を伸ばしているという。

 ホットクレンジングジェルのヒットの秘密は、商品の魅力もさることながら、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使って多数の消費者の声を集めて、それをパッケージデザインや売場作りに生かした点にある。SNS最大手の「ミクシィ」を利用した。マガジンハウスの女性誌「Hanako」の編集部の協力も得て、「あっためて つる肌委員会」という公認コミュニティーを昨年12月からミクシィに開設している。

 企画を考案した吉田悟・日用品マーケティング部衛生スキンケアグループグループマネージャーは、「つる肌委員会は多くても3000人参加してくれればいいと思っていた。ところが5月末に5000人を突破。製品を発売してしばらくしたら活動を停止するつもりだったが、反響が大きいのでまずは8月まで延長することにした」と驚きを隠さない。

 つる肌委員会から生まれたアイデアのうち、実際に商品に反映されたのは、パッケージに「蒸しタオル効果でお肌つるつる」というキャッチコピーを記載したこと。しかも、商品名よりも目立つように大きな文字で書き込んである。

 ホットクレンジングジェルは、単なるメイク落とし製品ではなく、肌を温めて毛穴を開かせ、毛穴に入り込んだ化粧品まで落とすという機能的な特徴を持つ。このため小林製薬の社内では当初、キャッチコピーとしては「温かさ」を売りにすべきという声が強かった。

 ところが、つる肌委員会を通じて500人にサンプルを配って感想を集めたところ、「温かさ」よりも利用後の「つるつる感」への評価が目立った。「つるつるになって気持ちいい」という声が一番多かったのである。そこで「お肌つるつる」というキャッチコピーにしたのである。

 また、商品パッケージや売場に置く販促用ボードの色合いをオレンジのグラデーションにしたのも、つる肌委員会での消費者の声に基づいている。雑誌に掲載する広告の中身についても、つる肌委員会に意見を求めた。

社内にウェブプロジェクトを発足

 キャッチコピー作りなどにSNSを活用しようという今回のアイデアは、2006年5月に発足した社内の「ウェブプロジェクト」がきっかけで生まれた。同プロジェクトチームには、吉田グループマネージャーをはじめ8人が参加する。約70人いるマーケティング室から公募で人選した。

 プロジェクトチームのミッションは、ウェブを製品のマーケティングにどう活用していくべきかを調査し、毎年2回のペースで報告すること。まずは数カ月かけて、開発・宣伝目的に活用されているサイトを徹底的に洗い出し、有望だと感じた12のサイトの運営会社を3日間に集中してヒアリングして回った。この時、ミクシィは女性のアクティブな利用者が多いと分かった。また、ミクシィの担当者がSNSの新しい使い方に挑戦することに意欲的だったので、ちょうど開発中だったホットクレンジングジェルで何かを仕掛けてみたいと考えたのである。

 吉田グループマネージャーは、「小林製薬としてはこの製品がメイク落とし市場への新規参入。とにかく正直な消費者の意見をたくさん集めたかった。今後の製品改良時も含めて参考にしたいからだ。そこで参加してくれる人に不信感を抱かれないよう、コミュニティの運営者の名義はミクシィとHanakoにし、当社の名前は出さなかった」と工夫を説明する。

 今回のタイアップ企画では、Hanako本誌にも「あっためて つる肌委員会」というコミュニティサイトと同名の連載記事を6回掲載した。SNSに寄せられた消費者の声の一部もそこで紹介している。

 ただし、吉田グループマネージャーはSNSを直接的に宣伝に活用することにはやや否定的だ。「SNSの公認コミュニティー自体は、商品の良さを引き出し、開発を支えてくれたのは間違いない。だが広告媒体として見ると、売り上げにはあまり貢献していないのではないか。広告はテレビコマーシャルなどいろんな手段を組み合わせる必要がある」。現在は開発中の別の商品で同様の取り組みをしようと準備を進めているところである。