安否確認システムから配信されたメール。自らの状況に該当するメールを返信すれば集計される仕組み
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 社員と情報システムを天災から守れ---。新潟県三条市に本社を置くコロナが、業務継続計画(BCP)を強化している。同社は2004年、中越地震と新潟・福島豪雨に被災した。この経験を踏まえてBCPを整備中。柱となっているのが、安否確認システム「MRS」と情報システム障害を想定したIT防災訓練だ。

 同社は、2004年7月12~13日の新潟・福島豪雨で本社工場が水害に遭遇。同年10月23日の中越地震では長岡工場が被災した。「100年に1度しか起こらないであろう災害に1年で2回も遭ってしまった。社員の危機感は非常に高い」(IT企画室の今井辰夫副部長)。水害では本社近くを流れる五十嵐川が決壊、本社1階が1.5メートル浸水したが、本社機能は1日も滞らなかった。販売や生産・物流情報が入った基幹システムを新潟市内のデータセンターに預けていたため、本社機能を倉庫に移して業務を続けることができた。これらの経験を体系化した防災規定を策定し、情報システムを整備してきた。

 MRSは有事が発生した際に、あらかじめ登録された社員の携帯電話のメールを送信。受け取った社員は、安否状況を返信する。返信先がブログ形式となっており、各社員が返信した安否状況が一覧で分かる仕組み。操作に慣れない社員にも考慮して使いやすくしたことも特徴だ。有事が発生した場合、「無事」「避難中」といった状況が書かれた4件程度のメールが届く。受け取った社員は自らの状況を示す状況が書かれたメールを選択して、返信するだけでよい。各社員から返信されたメールは、社内ネットワーク内に設置したブログで集計する。携帯電話の操作に慣れた社員であれば、周辺の状況を撮影してメールに添付することも可能である。安否の集計が容易になるほか、社員がこのブログを閲覧して情報収集することで対策本部への確認電話も減る。

 被災した当時の状況は「すべてが手探りでマニュアルのようなものはなかった」(今井副部長)と語るように、安否確認一つとっても電話による人海戦術で、集計結果をホワイトボードに書いていた。地方の営業拠点にいる社員はテレビなどの報道で情報を収集するしかなかった。

 新体制では、情報を一元管理するため、情報の周知徹底ができる。ただ、災害用だけに用途を限定してしまうと操作方法に慣れていないなど、いざというときに活用できない。同社では、会議の出欠を調べる際に利用するなど普段から慣れるようにしている。

 情報システム基盤の整備にも力を入れてきた。情報を預けているデータセンターを2カ所から3カ所に増やした。「前回の震災でも花瓶が倒れることがなかった」(同)という本社から60キロ離れたデータセンターにも情報システムを設置することにした。

 情報システムにとっては、天災だけがリスクだけではない。ハードウエアのトラブルは、大きなリスクとなり得る。決算期など社内の情報を集積する必要がある際に、サーバーにトラブルが発生すれば業務が大きく滞る。40日以内に決算を発表しなければならない規定があるが、システム停止時間が長引けば、これに抵触してしまう可能性もある。

 そこで、同社が取り組んでいるのが、情報システム部門の防災訓練である。同社が預けているデータセンターは新潟県にあり、ハードウエアの交換部品の在庫がある都内から遠い。不測の事態になった場合に、どのような手順で復旧すればよいのかを検証する。

 電源やディスクなどのハードウエアは東京にしか在庫がない。3月と4月に実施した訓練ではこれらの機器が故障したことを想定し、新幹線で代替機を運んだり復旧手順を確認したりした。さらに、決算期など障害発生時のリスクが高い時期には、電源やディスクといった調達に時間を要する部品の予備をデータセンターに常備する契約を結んだ。様々なリスクに対して備えることで、不測の事態でも対応したい考えだ。