積水ハウスは、新築現場から排出される産業廃棄物の削減を推進するため、無線ICタグを活用する。廃棄物にICタグを張り付けて発生量を顕在化させ、1棟当たりの廃棄物量を半減させる。2008年度までに全支店に展開する計画で、年間数億円のコスト削減を目指す。

 積水ハウスは廃棄物の削減を目指し、ICタグを使った「次世代型ゼロエミッションシステム」を日本総合研究所と共同で開発。07年1月に一部の地域で試験運用を開始した。09年3月までに全国約150支店に展開したい考えだ。

 同社が掲げている最終的な目標は、99年時点で2800kgあった新築現場1棟から出される廃棄物を、800kgにまで削減すること。現場では廃棄物を27種類に分別・回収し、自前の廃棄物処理工場では60種類に再分別した上でリサイクルする“ゼロエミッション”を05年7月に確立している。その結果、現在は平均で1780kgにまで下がった。

 「それを800kgまで減らすには、これまでの施工現場の業務改革だけではなく、上流工程となる設計や生産工場、物流までひっくるめた全体を改善しなければならない」(環境推進部推進グループ上川路宏チーフ課長)。そうした今後の改善施策が実際の現場でどれくらい効果を発揮するのか。それを厳密に測定し、上流工程に対してフィードバックできるようにするのが今回の「次世代型ゼロエミッションシステム」だ。

 同システムでは、まず新築現場で発生した27種類の廃棄物ごとに重量を計測する()。廃棄物名や重量、現場名などと、回収袋に付けたICタグのIDをひも付け、ICタグの読み取り端末から専用サーバーにデータを送信。それを事前に確認した廃棄物処理工場では、入庫した廃棄物とデータを照合して処理量を確定する。従来は回収トラックの容積から廃棄物の重量を概算するだけで、個別の重量を実測していなかった。新システムでは現場ごとに実測した廃棄物量を基に、今後打ち出す改善施策の効果を細かく検証できる。

図●積水ハウスはICタグを使って、新築現場の廃棄物処理工程の「見える化」を実施する
図●積水ハウスはICタグを使って、新築現場の廃棄物処理工程の「見える化」を実施する

 ICタグを採用したのは、汚れて読めなくなるバーコードは適しておらず、さらにICタグなら処理施設で一括で読み取って、作業を効率化できると見込んだため。そこで医療廃棄物を対象に、ICタグを使った廃棄物管理システム「MATICS」を開発していた日本総研と協力することにした。06年4月から開発を始め、07年1月には福島県の1支店と京都府の2支店で試験稼働を始めた。毎月約80棟の施工現場を持つ3支店で、1万5000枚程度のICタグを使用している。

 最終的に全国150支店で同システムを展開するには、約75万枚のICタグや約1000台の読み取り端末と重量測定器、全国6カ所の処理施設に読み取り装置が必要になる。ソフト開発なども含め、投資額は10億円規模になる可能性がある。

 一方で、コスト削減効果も確実にある。廃棄物の処理コストが下がるだけでなく、新築現場に投入する建材費や輸送費も減る。年間数億円以上の削減効果が期待できそうだ。「環境対策は単純な投資効果だけでも測れない。企業としての将来性を考えれば必要な活動ではないか」と上川路チーフ課長は話す。