新規会員に「入会サンクスコール」の電話をかけるコールセンター「ユビキタス」のオペレーター
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 2007年3月期に24期連続で増収増益(単体実績)を達成したクレジットカード大手のクレディセゾンが、2005年夏から推進してきたクレジットカードの新規会員に対する「入会サンクスコール」が効果を上げている。入会サンクスコールとは、新規会員に入会のお礼と感謝の意思を示すため、新規会員に電話をかけるものだ。

 これは、企業のほうから顧客に電話をかける「アウトバウンド」と呼ばれる電話応対の一種である。この入会サンクスコールにより、クレディセゾンや同社の提携先のクレジットカードに入会したばかりの新規会員が「入会から3カ月以内」に、まず1回クレジットカードを利用して街で買い物の支払いをする割合が高まった。

 クレディセゾンはこの指標を新規会員の「初期稼動率」と呼ぶ。入会サンクスコールを2005年夏から現在まで約2年間続けてきたことで、初期稼動率が約5ポイント上昇した。

 クレディセゾンは前期の1年間に過去最高となる428万人の新規会員を開拓。そのなかで初期稼動率を5ポイント押し上げられたアウトバウンドの効果は大きかった。初期稼動率が上がれば、当然、会員全体の稼動率の上昇も期待できる。クレジットカード会員の中には、とりあえず入会はしたものの、1年に一度も利用しない人が数多く存在する。こうした非稼動の会員に、とりあえず1回カードを使ってもらうことは、クレジットカード会社にとって大きな意味がある。

 クレディセゾンのほうから新規会員に電話をかけるアウトバウンドは、企業都合の一方的な電話営業にもつながりかねないだけに、実行に踏み切るには会社としてリスクを伴う。だが、クレディセゾンは電話をかけるタイミングや会話の内容を工夫することで、入会サンクスコールを稼動率の上昇に結びつけた。

攻めの電話は戦略的なコールセンターあってこそ

 クレディセゾンで顧客対応を一手に引き受けるコールセンターである「Ubiquitous(ユビキタス)」には、入会サンクスコールの電話をかける専門チームがいる。そのオペレーターは、新規会員の自宅に新しいクレジットカードが届くタイミングに合わせて電話をかけ、まず入会のお礼を伝える。それから、入会後のメリットといったお得でタイムリーな情報を伝えることで、自然に新規会員のカード利用を促す。

 例えば、有効期限がないクレディセゾン独自のポイントプログラム「永久不滅ポイント」の説明や、クレジットカード事業で協業している提携先の商材の紹介、現在実施されているプロモーションや割引などの案内などをすることで、セゾンカードの良さを新規会員に理解してもらい、最初の1回目の利用につなげる。

 クレジット本部の井上裕クレジット計画部長は、「クレジットカードに付帯する様々なサービスの中には、会員が気づいていないお得なサービスが数多くある。それらを入会直後にきちんとお伝えすることで、セゾンカードの価値を知ってもらう。それが結果的に稼動率の引き上げにつながっている」と、アウトバウンドの意義を語る。

 実は、入会サンクスコールを軌道に乗せられた背景には、ユビキタスにおける情報システムの整備と、オペレーターにとって働きやすい仕事環境作りがあることも見逃せない。2005年4月に完成したユビキタスには、会員とのコンタクト履歴を蓄積する新しい顧客情報管理システム「SoRa」が導入された。顧客からクレジットカード入会の申し込みが来てから、審査、請求、回収に至るまでのすべての業務と、日々の問い合わせ対応(インバウンド)を受け付ける、あらゆる面での会員窓口になるユビキタスのオペレーションを裏で支えているのがSoRaだ。

 クレディセゾンが2005年夏に入会サンクスコールを実施できるようになったのも、2005年春に顧客とのコンタクト履歴を管理できるSoRaが整い、会員に迷惑をかけずにアウトバウンドを実施できる仕組みが整ったからだ。

 しかもユビキタスは、インバウンドにしろ、アウトバウンドにしろ、コールセンター業務に就くオペレーターの働きやすさを最大限に考慮した作りになっている。オペレーターは毎日、「顔の見えない会員」を相手に電話対応やクレーム処理を繰り返さなければならないだけに、仕事上のストレスも多い。電話オペレーターは一般に、離職率が高い職種といわれている。

 そのような労働環境で、ある程度のスキルと経験を必要とするアウトバウンドを実施するのは容易ではない。オペレーターの「定着」は、クレジットカード会社の至上命題である。


ユビキタスの中にある社員食堂は、お洒落なレストラン並みの充実ぶり
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 当然ながら、SoRaのような顧客情報管理システムがなければ、オペレーターはスムーズな対応ができないから、仕事に負担を感じてしまう。年間400万人規模で増え続けるクレディセゾンの会員数の伸びに、オペレーターの能力が追随できなくなる。その意味では、クレディセゾンはSoRaの稼働を機に、会員に伝える情報量を落とさずに、会員1人当たりの電話応対時間を従来よりも約20%短くすることに成功しており、会員にとってもオペレーターにとっても手短に要件が解決する望ましい状況を作り出せた。

 もちろん、システムだけ整えれば、すべてうまくいくという話でもない。クレディセゾンは、ユビキタスにある社員食堂をレストラン並みに充実させたり、清潔で広々としたオフィス空間を提供するなどして、オペレーターの働きやすさに細心の注意を払っている。特に建物の1階にある社員食堂は、近所の人がお洒落なレストランと間違えて入ってこようとするほどの充実ぶりで、オペレーターを大切にする同社の思いがこめられている。

 ここ数年で、クレディセゾンが高島屋やヤマダ電機、大和ハウス工業、静岡銀行などと、クレジットカード事業で次々と大型の業務提携をまとめられたのも、ユビキタスの情報システムと仕事環境の充実が大きな決め手になっている。提携交渉の過程ではユビキタスの見学ツアーが実施されるのが常だ。しかも、入会サンクスコールで自社の商材を紹介してもらえれば、提携先のメリットはさらに広がる。会員にもオペレーターにもメリットがあるコールセンターには、提携先も引き寄せられるわけだ。