図 業務改善命令に対する、楽天証券の改善策
図 業務改善命令に対する、楽天証券の改善策

 たび重なるシステム障害が原因で、金融庁から業務改善命令を受けた楽天証券が、今年5月の命令の達成期限に向け、必死のシステム増強を進めている。9月までにデータベース・サーバーの処理能力を現行の2倍強に高める。投資額は、60億円を超える見通しだ。

 楽天証券は、9月までに150万口座分の注文を処理できるように、株式売買システムの処理能力を倍増させる。システム増強の柱は、データベース・サーバーのアーキテクチャ変更とハードの増強である(図)

 データベース・ソフト「Oracle 9i」を、日本ヒューレット・パッカード(HP)の最上位サーバーである「HP Integrity Superdome」で動作させる構成は変えないが、2台のサーバーで負荷を分散しながら処理できるようにする。新たに、クラスタリング・ソフトの「Real Application Clusters(RAC)」を採用する。以前は、2台のサーバーを本番系と待機系に分けて動作させていた。

 さらに、クラスタ構成のハードとソフトを同時に2組導入。口座番号に応じて、顧客のデータを別々のデータベース・サーバーで管理する。1組のデータベース・サーバーを増設することで、30万~35万口座分の注文が新たに処理できるようになる。

 このほかに、急増する注文をさばくため、Webサーバーやアプリケーション・サーバーも「1度に20~30台の単位で数を増やしている」(情報システム部の榎本裕之 運用管理担当リーダー)。機器納入のリードタイムを大幅に短縮するため、「通常なら発注から機器搬入、稼働まで3週間はかかるところを、3日程度にできるよう、ベンダーに機材供給の特別体制を敷いてもらっている」(同)という。

 加えて楽天証券は、今年5月に2つ目のデータセンターを新設。9月までに、既存のデータセンターと同じだけの処理能力を持つ設備を導入する。併せて Oracleの運用体制も見直した。日本オラクルのエンジニアを2人、楽天証券に常駐させている。

 楽天証券の連結業績(2006年3月期第3四半期)は、売上高が209億1800万円、営業利益が104億7700万円。好調な業績を背景に、2005 年11月に現行システムを稼働させた時点で、「すでに今年度のIT予算の2倍を費やした」(楠雄治執行役員マーケティング本部長)。現行システムへの投資額は40億~50億円(本誌推定)、さらに60億円超を投じる。

 徹底してシステムの増強を進めるのは、処理量の急増に伴って、サーバーの負荷が異常に高くなったときにしか顕在化しないバグが発生し、システム障害に襲われた経験があるからだ。

 「まだ未知のバグがあるかもしれない。処理を分散化することで、データベース・サーバー1台当たりのプロセサ使用率を、常時50%以下に保つ」(楠執行役員)。

 楠執行役員は、「もう一度、大規模なシステム障害が起きれば、最悪の場合、顧客の新規募集停止という処分もあり得る。システムの安定稼働のためには、金に糸目は付けない」と語る。現在のところ楽天証券は、システム障害が原因で業務改善命令を受けた、唯一のネット証券会社。一連の改善策は、システム障害に対する強い危機感の表れといえる。