写真1●ネットワーク・カメラを利用して携帯電話の販売店などを監視
写真1●ネットワーク・カメラを利用して携帯電話の販売店などを監視
個人情報の漏えいを抑止する目的で導入した。

 神奈川県を中心に携帯電話の販売店などを展開するKYグループは2007年1月,ネットワーク・カメラを利用した店舗監視システムを導入した。管理者がインターネットを介して店舗の様子をリアルタイムで監視できるようにし,トラブルが起こった際は過去にさかのぼって映像を確認できるようにした(写真1)。工事費用を含めたネットワーク・カメラと管理サーバーの導入コストは約1300万円である。


「販売店は個人情報の“宝庫”」

写真2●KYグループ 法人事業部長の坂本雅雄取締役
写真2●KYグループ 法人事業部長の坂本雅雄取締役

 監視システムを導入した第一の目的は,社員による個人情報漏えいの抑止である。「携帯電話の販売店は個人情報の“宝庫”。契約の際は顧客の名前や住所,生年月日,口座番号やクレジットカード番号に加え,身分証明書のコピーをもらう。多くの信用情報を取り扱うため,情報の漏えいは絶対に避けなければならない」(法人事業部長の坂本雅雄取締役,写真2)。

 もちろん,情報漏えい対策ではこれまでも手を打ってきた。契約書や身分証明書のコピーは携帯電話事業者にファクシミリを送った後で,廃棄またはセキュリティが厳重な本部でまとめて保管している。契約書の店舗用控えはあらかじめ個人情報が残らないフォーマットに設計されており,従業員が控えを見て個人を特定することはできない。このような対策を実施していても,事業者からはさらなる厳重な管理の要求があるという。「強制ではないが,店舗への監視カメラの設置を要望する事業者もある」(坂本取締役)。

 狙いはほかにもある。数ある個人情報漏えい対策の中からネットワーク・カメラによる監視を選んだのは,社員による情報漏えいを抑止すると同時に,店舗における突発的なトラブル対応にも活用できると考えたからだ。「クレームを付けて店舗で暴れる顧客がいるし,偽装免許による契約で過去に何度か被害を受けたことがある。管理が甘い店舗という情報が流れれば,狙い撃ちされる危険性もある。店舗の様子をネットワーク・カメラで監視,保存しておけばトラブル時の証拠になるだけでなく,防犯効果を期待できる」(坂本取締役)。こうした考えから全販売店に導入することにした。

複合機と連携した管理機能を評価

 本格的な検討を開始したのは2006年8月。複数メーカーのネットワーク・カメラを調べていたときに,通信インテグレータのフォーバルから提案を受けた。ネットワーク・カメラの監視映像と,複合機や入退室システムのログをリンクさせて集中管理できるシステムだ。例えばファクシミリの送受信やコピーの履歴をログとして記録し,その様子をネットワーク・カメラで撮影した映像とひも付けて管理できる。KYグループは,この拡張性を評価した。当面はネットワーク・カメラによる監視だけだが,将来は複合機と連携した管理システムを構築する予定だ。

 早速,2006年12月から導入を開始。まず携帯電話の販売店37店舗と自動車の販売店1店舗の合計38店舗にネットワーク・カメラを設置した。各店舗には,販売スペースと事務スペースのそれぞれを監視するため,基本的に2台のネットワーク・カメラを設置してある。ネットワーク・カメラは店舗の広さや間取りを考慮して,キヤノンの可動タイプ「VB-C50iR」とアクシスコミュニケーションズの固定タイプ「AXIS 206」の2種類を併用する。

 本社と店舗を結ぶWANも新たに構築した。NTT東日本の「Bフレッツ」とヤマハのブロードバンド・ルーター「RT58i」を使い,インターネットVPNで接続する(図1)。ただ,現時点では15店舗しかつながっていない。残りの23店舗はこれから順次接続していく。また,このうち2店舗はBフレッツを引き込めないことが判明しているので,そこにはフレッツ・ADSLを利用する予定である。

図1●店舗監視システムのネットワーク構成
図1●店舗監視システムのネットワーク構成
NTT東日本のBフレッツを利用してインターネットVPNを構築。監視映像はフォーバルのログ管理サーバー「サテライトサーバ」で集中管理する。管理者は店舗の様子をリアルタイムに監視できる。
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サーバー10台で映像を1カ月保存

 監視映像は,複数の店舗に設置したフォーバルのログ管理サーバー「サテライトサーバ」で集中管理している。サテライトサーバが各ネットワーク・カメラにHTTPなどで接続して監視映像をまとめて受信,保存する仕組みである。管理者は専用ソフトを使ってサテライトサーバにアクセスし,店舗の様子をリアルタイムで確認したり,保存した監視映像を日時を指定してチェックしたりできる。映像を写真の連続カットで分析することも可能だ。専用ソフトとサテライトサーバは独自プロトコルでやり取りする。

 サテライトサーバは10台導入した。1台当たりのディスク容量は500Gバイトである。ネットワーク・カメラが配信する映像のデータ形式はMotion JPEGで,解像度は640×480。「監視映像は最低1カ月間は保存しておきたい」(坂本取締役)。このため管理者がリアルタイムに監視する映像は1秒当たりのフレーム数を30に設定しているが,保存用の映像はディスク容量の消費を抑えるためにフレーム数を5に落とした。このような条件で80台近くあるネットワーク・カメラの映像を保存しておくには,10台のサテライトサーバが必要だった。

 サテライトサーバではディスク容量が足りなくなると古いデータから上書きする仕組みになっている。このため,あらかじめ1カ月分のディスク容量を確保しておけば,その後は容量不足を気にしなくて済む。

従業員教育に活用する計画も

 インターネットVPNで接続した店舗を対象に2007年1月から順次運用を開始しており,当初は想定していなかった効果も見えてきた。販売店の従業員にはネットワーク・カメラで常に監視していることを周知している。「監視されていると分かると,従業員の間に緊張感が出る。仕事に対する姿勢が良くなってきた」(坂本取締役)。事務スペースでの喫煙が減ったり,積極的に接客したりする変化を感じている。「これを生産性の向上につなげていきたい」(同)。

 今後は本社に専用の監視ルームを設置し,従業員の接客指導を実施する計画もある。本社と店舗は距離が離れているので,これまではなかなか目が行き届かなかった。監視システムを活用すれば,「ポップの位置を変更しなさい」とか,「今の接客態度は問題がある」といったように,現場に出向いたときと同じように細かく指導できる。

 今回導入したキヤノンのネットワーク・カメラは光学26倍のズームレンズを搭載しており,カメラの角度やズームを遠隔から制御できる。「対象を絞ってズームしていくと,契約書の文字まで見える」(坂本取締役)。契約書の内容を確認して不備を指摘する用途にも使えるという。