東武百貨店の池袋店
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 東武百貨店(東京・豊島区)の旗艦店である池袋店の和洋菓子売り場の改装が実績を上げている。116万人以上の顧客が加入する会員カード「東武カード」の顧客情報を分析した効果が出たものだ。

 和洋菓子売り場全体の売上高は、今年2月22日の改装直後の3~4月の累計が前年同期比で9.6%増と好調に推移している。特に改装の最大のテーマだった和菓子売り場の活性化は成功で、同じく3~4月の売上高の累計で前年同期比27.6%増と、大幅な伸びを記録した。

 成功の要因は、顧客が菓子売り場で買い回りしやすいように、テナントの店舗配置を入れ替えたことだ。会員カードの顧客情報から、和洋菓子売り場における顧客のテナントの買い回り状況や順序を正確につかみ、テナントの並びを再配置したことが奏功した。

 もともと東武百貨店は洋菓子売り場が強く、都内のデパートの中でもトップクラスの売り上げを誇るテナントが10軒以上も連なっている。それに比べれば、和菓子売り場はほかのデパートよりも強いとはいえない状態で、改善の余地があった。


顧客の買い回りを促すため、2007年2月に改装を完了した池袋店地下一階の和洋菓子売り場
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 今回の会員カードの分析の狙いは、東武百貨店の強みである洋菓子売り場の勢いを保ちながら、同様に和菓子売り場にも顧客の関心を集めて、菓子売り場全体を活性化することだった。東武百貨店は、その目的をひとまず達成できたことになる。

 東武百貨店は、各売り場の特徴や客層、会員カードの分析とその結果である改装実績などの情報を全社員で共有するため、年に約6回「東武実践塾」と呼ぶ売り場での成果発表会を実施している。

 この3月に和洋菓子売り場で実施した実践塾では、改装の成功を称えて、経営陣から現場に労いの言葉が出るなど、東武百貨店にとっては大きな現場変革の成功事例発表になった。

新システムで会員カードの分析が容易に

 こうした会員カードの分析が可能になったのは、改装前の2月までに本格稼働させた、新しい顧客購買履歴の分析システムの存在が大きかった。東武百貨店は従来から会員カードの分析を実施しているが、旧システムは分析に何日もかかり、現場にとっては使いにくいものになっていた。それが新システムは数分で結果が出るようになり、「売り場が立てる仮説に対し、すぐさま結果を検証できるようになり、現場でのトライ&エラーがしやすくなった」(葛馬正記・情報システム部長)。

 分析には、ショッピングモールの顧客分析などで実績があるベンチャー企業のリゾーム(岡山県岡山市)の顧客分析ソフトを使っている。

 東武百貨店は今後、社内のマーケティング政策部が中心になって、現場のテナントと会員カードの分析で連携を強めていく考えだ。

 その第1弾に位置づけられる和洋菓子売り場の改装が成功したことで、「売り場にはもっと、会員カードの分析の大切さを理解してもらう。今は昔のように、改装効果が3~5年も長続きするような時代ではなくなった。改装効果は半年から1年しか続かないことを前提に考え、改装が終わったらすぐ次の改装の検討を始められる体制を築き上げたい」(山本静雄・商品政策室マーケティング政策部長)。

 約1年後の2008年6月には営団地下鉄、東京メトロ13号線「副都心線」が開業する予定であり、東武百貨店の本店がある池袋、そして新宿と渋谷の3大副都心を縦断する新路線が誕生する。こうなると、今まで以上に3大副都心の人の流れが活発になると期待される。

 現在、この3大副都心に立地する百貨店で改装ラッシュが起きているのは、そのためでもある。今回の東武百貨店の菓子売り場の改装も、その1つだ。新しい地下鉄の開業という大きな環境の変化を前に、東武百貨店は会員カードの分析体制を抜本から見直して、大きな商機が来る来年に向けた臨戦態勢を整えた。