セブン&アイ・ホールディングスのCIOである佐藤政行執行役員

 4月23日に、都内にある約1500カ所のセブン-イレブンで利用が始まったセブン&アイ・ホールディングスのポイント機能付き電子マネー「nanaco(ナナコ)」について、その開発責任者で、セブン&アイのCIO(最高情報責任者)に相当する佐藤政行執行役員システム企画部CVSシステムシニアオフィサーが開発秘話を披露した。内容は、ナナコのリリース時期の決定と、初年度で1000万枚を見込むカード発行枚数の計算についてだ。

 まず、2007年4月のナナコの開始時期については、前月の3月から首都圏で利用が始まった鉄道会社系の電子マネー「PASMO(パスモ)」のリリース時期に意図的に合わせたと明かした。セブン-イレブン・ジャパンが電子マネーの検討に入ったのは2000年までさかのぼるが、「いつリリースするのがよいかを考え続け、ずっとベストなタイミングを待ち続けていた」(佐藤執行役員)という。その過程でパスモが2007年3月から始まることを知り、そのタイミングにナナコのスタート時期を合わせることで、「一気に市場全体で電子マネーを盛り上げようと考えた」(同)。

 その狙いはズバリ当たり、この春は連日メディアが電子マネーについて報じるなど、電子マネーの注目度は、かつてないほど高まっている。4月27日にはイオンも独自の電子マネー「WAON(ワオン)」を開始するので、注目度は一層高まった。電子マネーに顧客の関心を引くという佐藤執行役員の目論見は成功したといえるだろう。

ナナコの前に店舗システムの全店稼働が必須


2006年に稼働した第6次システムと、ナナコのつながりを説明する佐藤執行役員
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 ただし、2007年4月にナナコを開始するには、その前にクリアしておかなければならない絶対条件があった。それがナナコを運用する情報インフラとなる新しい店舗システム「第6次総合情報システム」の全面稼働だった。約500億円を投じて開発した、電子マネー機能にも対応する第6次システムが全店で動き出さないことには、ナナコを全国でスタートできない。

 実はセブン&アイは当初、第6次システムの導入開始時期を2007年春と想定し、準備にとりかかっていた。そうなれば、全店展開が完了するのは2008年以降になる。

 この計画のままでは、当然ナナコを2007年春にスタートできない。そこで、佐藤執行役員は「第6次システムの開発期間を当初の計画から半年から1年前倒しにしてでも、2007年4月のナナコのスタートに備えるという決断を下した」。そしてセブン&アイは、そのスケジュールを死守した。第6次システムは2006年5月に導入を開始できており、この3月末には全店展開を終えた。だから3月末には胸を張って、ナナコの4月開始を宣言できたのである。

 2006年夏の時点で、第6次システムの全店展開にメドが立ったセブン&アイは、ようやくその時点から、ナナコのシステム開発に着手。2006年秋から大量の開発要員を投入して、この春のリリースまで一気に持ち込んだ。ナナコのシステム投資は数十億円に達している。

 佐藤執行役員は「第6次システムとナナコの開発チームは同じメンバーだ。当初の計画から1年も前倒しで第6次システムを開発できたメンバーだったからこそ、ナナコも半年足らずという短期間で稼働まで持っていけた」と振り返る。

無謀にも思える初年度1000万枚は妥当な数字

 ナナコのリリース時期と並んで、佐藤執行役員が明かした裏話で興味深いのは、初年度にいきなり1000万枚を見込むナナコの発行枚数の試算のからくりである。全国に約1万店あるセブン-イレブンの店舗数で単純に枚数を割り算すれば、1店舗当たり1000人の顧客にナナコ会員になってもらわなければならない。一見、無謀にも思える高い発行目標枚数なのだが、佐藤執行役員は「裏づけがある十分に達成可能な枚数」としている。

 その根拠となるのは、北海道でのポイントカードの発行実績である。セブン-イレブンは全国でも例外的に、2003年9月から北海道限定でポイントカードを発行している。1店舗当たりのポイントカード会員数は平均2100人で、1店舗当たりの平均顧客数2500人の約80%がポイントカードを保有している計算になる。北海道にある全830店の合計では、発行枚数は約170万枚に達する。

 北海道でのポイントカード発行時には、特徴的な入会パターンが見受けられた。それは、1店舗当たり平均2100人いるポイントカード会員のうち、その半数の約1000人が「サービス開始から1カ月」で、ポイントカードを作ったということだ。つまり、サービス開始直後がいきなり発行のピークになり、1000人もの顧客を呼び寄せたのだ。

 この傾向を考えれば、「約1万店の店舗が全国でナナコのサービスを開始する2007年5月からの1年間で、1店舗当たり1000人の会員を集めることは無理な計算ではない」(同)。そう考えれば、「1000人×1万店=1000万枚」という計算が十分に成り立つという。

 もっとも、北海道のポイントカードと全国規模のナナコでは発行条件が異なっているので、その点は考慮しなければならない。北海道のポイントカードは無償で顧客に配布していたのに対し、ナナコは300円の発行手数料を徴収する。当然ナナコのほうが入会のハードルが高い。しかも北海道は競合のセイコーマート(札幌市)がポイントカードで先行し、ポイントカードに顧客がなじみやすかった土壌もある。こうした北海道特有の事情を、佐藤執行役員は加味している。

 それでも1年あれば、各店が1000人のナナコ会員を集めるのは決して難しい目標ではないというのが、佐藤執行役員の想定なのである。なお、北海道限定のポイントカードは5月15日でポイント加算を終了することになっており、北海道でも新たにナナコを展開することになる。

 むしろ、ここにきて心配になってきたのは、「ナナコのカード在庫が足りなくならないかどうかだ。カードの購入コストを考えれば、想定をはるかに上回るカード在庫をあらかじめ用意できるわけではない」(同)。佐藤執行役員がこんな心配をするのも無理はない。一足先にサービスを開始したパスモはサービス開始から23日で販売枚数が300万枚を突破して、いきなりカード在庫不足に陥り、新たなカード発行を定期券に限定するという異常事態に見舞われた。パスモが被る販売機会損失の規模は尋常ではないはずだ。

 果たして、ナナコはこの1年間で何枚発行されるのか。カードが足りなくなるような事態は起こり得ないのか、今後の動向を注目したい。ナナコの導入の狙いとして、顧客情報の分析による品ぞろえの変更や、商品開発への反映といった将来構想ばかりが声高に叫ばれる傾向にあるが、それは数年先のステップだ。カード発行という最初の大きな山場を乗り切った後の話である。

 佐藤執行役員は、「いずれ支払い時の顧客のナナコ使用率が全国平均で20~30%を超えてくれば、ナナコから得られる顧客情報を使って売り場を大きく変えていける可能性がある」と話している。