生産量の繁閑期の差が3倍にもなるルームエアコン。ダイキン工業は8年間で生産台数を倍増させながらも、製品在庫を25%減らした。立役者は「ハイサイクル生産」と呼ぶ生産方法と、情報システム「ALPHA」だ。この導入で、1度に生産計画を立案する日数を15日から3日に短縮した。市場の変化を即座に生産計画へ反映できる体制を整えてきた。

3月に発売予定の「AN40HRP-W」
滋賀製作所の室内機組み立てラインは、作業者に合わせて作業台の高さを自動調整したり、作業手順を指示したりする

 今やシェアトップの座を松下電器産業と競い合うまでになったダイキン工業のルームエアコン事業。2006年度の国内生産量は約137万台と、1998年度の約60万台から2倍以上になった。それにもかかわらず、製品在庫は金額ベースで25%減、在庫回転率も7.3回転から13.5回転へと効率は上がっている。この原動力となったのが、99年に導入したハイサイクル生産と情報システム「ALPHA(アルファ)」だった。

 ハイサイクル生産とは、ダイキンが名付けた生産方式のことで、生産計画の立案から製品出荷までの管理サイクルを早く回すもの。具体的には1回当たりに生産計画を立案する日数を従来の15日分から3日分にまで短縮。月の半ばに翌月初めの15日分の計画を立案する体制から、週末に売れた分を翌週の生産計画に反映できるようにし、最小の在庫で市場の動きに追随できる体制にしようというものだ。

 短サイクルで在庫を抑えなければならない背景には、需要変動の激しさがある。ルームエアコンは夏前に生産のピークを迎え、冬場は閑散期となる。生産量の差は実に3倍にもなる。「最も売れるヤマ場がいつ来るのかは毎年変わる」とグローバルSCM推進部の外山英嗣業務革新担当課長が言うように、暑くなれば急激に需要が伸びる。生産サイクルが長いと、猛暑になれば欠品になり、逆に冷夏には在庫が山積みとなってしまう。天候に大きく左右されてしまうルームエアコン市場で勝ち抜くために、ダイキンが出した答えがハイサイクル生産だった。

●繁閑期の生産量の差が3倍ある市場でも「必要な量だけ」を供給する体制に
●繁閑期の生産量の差が3倍ある市場でも「必要な量だけ」を供給する体制に
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同時並行で業務を進めて時間短縮

 ハイサイクル生産を陰で支えるのが、情報システム「ALPHA」だ。生産部門のみならず資材部門などと情報共有を円滑に進める。ALPHAを中心となって活用するのが、グローバルSCM推進部内の計画グループである。生産量を決める権限を持つ一方で、在庫責任を負う部署だ。

グローバルSCM推進部の外山英嗣業務革新担当課長(左)と、住宅空調生産本部企画部の増田敏雄氏
グローバルSCM推進部の外山英嗣業務革新担当課長(左)と、住宅空調生産本部企画部の増田敏雄氏

 情報の流れはこうだ。計画グループは営業部門が立てた販売計画に独自の判断を加えながら、ALPHAに仮の生産計画を登録する。判断材料は、過去3年間の販売実績、国内に4拠点ある倉庫の在庫量や量販店のPOS(販売時点管理)情報などである。直近のトレンドと現在ある在庫量を勘案して仮の生産計画をALPHAに登録する。これを見た資材部門と生産部門は自部門の調整業務を進める。

 生産部門であれば計画グループが要求した数量をこなせるかどうかや、人材供給が可能かどうかを考える。資材部門なら、モーターのように納期が1カ月もかかる部品が計画通りに手配できるかを確認するといった具合である。調整した結果を持ち寄って、週2回各部門が集まって開くハイサイクルミーティングで計画を確定させる。

 ALPHA導入前は、計画を決めるまでの作業は情報をバケツリレーのように各部門を回して行っていた。生産機種が約600もあるため、すべて手作業で行っていては、3日に1度の周期で計画を立案できない。そこでALPHAでは、約600機種のうち8割までを、自動的に計画を立案できるシミュレーションソフトを使っている。ラインで生産できるかどうか、負荷まで考えてはじき出す。取引メーカーにも以前は注文書をファクスで送信していたが、EDI(電子データ交換)で情報を提供することでプロセスを早めてもらうようにした。

 こうした取り組みにより、3日でサイクルを回せるようになり、製品在庫の25%減につながった。ダイキンではALPHAを自社開発し、約1年かけて完成させた。システム運用費も従来に比べて50%削減できているという。

 ただし、新しい仕組みを構築しても、生産現場が必要な分だけ作れる体制でなければ、絵に描いた餅に終わりかねない。ダイキンでは、30年近く前からトヨタ生産方式を取り入れている。トヨタ式にエアコンの生産特性を加えて1978年に確立したのが、PDS(ダイキン生産方式)である。ハイサイクル生産の基礎となったものだ。

●ハイサイクル生産を支えるALPHA
●ハイサイクル生産を支えるALPHA
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トヨタから直伝の生産改革

 PDSは、1ラインで多品種を混合して生産できる仕組み。最小単位は1で、「1個流し生産」とも呼ぶ。すべての製品には、4ケタの「背番号」を付けて管理している。1ラインには1日80~100機種も流れるため、構成部品や必要な工程はそれぞれ異なる。各部門を越えて共通の番号を割り振っておくことで、バラバラな仕様を1ラインで流せる体制を構築した。これらをALPHAの前身である「DAPICS」が下支えしていた。

 PDSを確立するまでに、トヨタ生産方式を肌で感じる研修にも取り組んだ。ダイハツ工業の工場に出向いて生産ラインに入り、トヨタ式のいろはを学んだ。当時新人だった空調生産本部の木村茂滋賀製造部長も参加した1人だ。

空調生産本部の木村茂・滋賀製造部長
空調生産本部の木村茂・滋賀製造部長

 今でもトヨタ自動車から学び、ダイキン流に磨きをかけている。指導役となっているのが、トヨタ自動車の銀屋洋顧問である。銀屋氏は2006年6月までトヨタの技監を務めた。トヨタの技監といえば、トヨタ流の技術・生産を極めた最高峰の称号を持つ人物を意味する。数カ月に1度滋賀製作所を訪れてもらい、銀屋氏が直接指導する。木村部長は銀屋顧問から「作業者はラインを止める権利があり、良品を作り込む義務がある」と改めて教わった。こだわる数字が直行率(手戻りしない比率)だ。

 一見相反する項目だが、不良品の発生率を抑えれば直行率が向上し、さらなるリードタイム短縮にもつながる。同社の直行率は「ラインによってばらつきがあるものの約98~99%」(木村部長)という。残りの数%の原因が何かを解明し、どれだけ減らせるのかについて指導を受けている。

次なる目標は海外での定着

 品質管理や調達など部門をまたいで再発防止策を検討する場「生産性ミーティング」を毎朝設けている。議論のサイクルも早めることで改善のスピードを上げる。ラインが停止した内容は何か、どういった原因が考えられるのかなどを部門を横断して議論し、再発防止策を考える。防止策の進ちょくも毎日行われるミーティングで確認していく。早いサイクルでPDCA(計画─実行─検証─行動)を回すことで同じ理由でラインが止まらないように対策を講じてきた。

 管理サイクルを短縮させるには、社内だけでなく部品メーカーの能力向上が欠かせない。大きな需要のブレに、ダイキンと同期を取れるだけの能力を身に付けてもらう必要がある。そこでダイキンから「ものづくり強化担当者」を派遣し、取引先の生産改革にも踏み込む。こうしてエアコンの室外機を製造するラインでは、1ライン当たり80~100機種もの異なる製品が流れる多品種少量生産を実現している。滋賀製作所はピーク時に1日6000台のエアコンを製造できる底力がついた。

 ダイキンが次に目指すのは、グローバルでのハイサイクル生産の定着だ。今や国内と海外における生産比率は、ほぼ半々だ。既にALPHAを海外拠点に順次導入している。2002年10月のタイへの導入を皮切りに、中国やチェコなど主要な生産拠点に導入してきた。国内の3日には及ばないが、7日の生産サイクルの状況を整えてきた。

 「インフラは整ったのでより効率的な活用法を考えていきたい」と住宅空調生産本部の増田敏雄氏は意気込む。これらの取り組みによってグローバルでの在庫削減を目指す。