100円ショップ「Seria生活良品」の店舗
[画像のクリックで拡大表示]

 100円ショップ「Seria生活良品」などを800店以上展開する業界3位のセリアが、100円ショップ業界の先端を走るIT(情報技術)活用で、既存店の業績を上向かせている。2005年3月末には約600店あるすべての直営店に「リアルタイムPOS(販売時点情報管理)システム」の導入を完了。そこから集まるPOSデータを利用して、店舗に並べる商品を本部が推奨発注する「発注支援システム」を2006年9月に稼働させた。これらのシステムが直接、セリアの業績に貢献し始めた。

 リアルタイムPOSシステム、発注支援システムともに業界初の全店導入事例だが、陣頭指揮を執る岩間靖取締役業務部長は「リアルタイムのPOSデータを使うことで、100円ショップという価格均一の特殊業態に一番適した発注の仕組みを構築できた」と自信を見せる。

 実際、結果が出始めている。発注支援システムが稼働した後、2006年12月から2007年3月まで直営店の既存店売上高が毎月、前年同月を上回っている。店頭でのリアルタイムの需要を正確にとらえ、そこから上がるPOSデータを本部が集計して、次の商品発注量の「推奨値」を各店舗に提示する発注支援システムのおかげで、既存店の品ぞろえが改善。店舗の活性化に成功した。2007年3月期の決算は増収増益になる見通しで、過去最高益を更新するのはほぼ確実だ。

POSシステムがなかった100円ショップ業界

 100円ショップ業界は、最大手の大創産業(ダイソー、広島県東広島市)と業界2位のキャンドゥが長年、POSシステムの導入を見送ってきた。そういう意味では、100円ショップはコンビニエンスストアやスーパーとシステム環境が大きく異なっているといえる。両社がPOSシステムの導入に動き出したのは、つい最近のことである。

 一方、業界3位のセリアは上位2社と一線を画し、2004年に業界の先陣を切って、POSシステムの全店展開に踏み切った。ITで上位2社との差異化を図ったのだ。しかも、当時としては極めて珍しく、システム構築を担当したNECでさえ一時は二の足を踏んだ、ネットワークにインターネットを利用したリアルタイム処理のPOSシステムの構築を断行。リアルタイムPOSの導入という意味では、小売り全体の中でも一気にIT先進企業に躍り出た。

 もっとも、リアルタイムPOSを導入しただけでは店舗は何も変わらない。集めたPOSデータを何に使うかで勝負は決まる。セリアはPOSデータを発注業務の改善に利用するため、独自の発注支援システムを社内で独自開発し、本部主導で直営店の品ぞろえを変えることにした。

 実はセリアは店舗にタッチパネル式の携帯発注端末「タッチワン」を導入して、「店舗発注」を促進してきた経緯がある。だが、店舗発注だけに頼ると、発注担当者の好き嫌いといった主観が商品発注に反映されてしまい、「全国的に売れている商品が特定の店舗にだけ入っていかないという現象が確認できた。これでは顧客が望む品ぞろえができない」(岩間取締役)。

 そこで2006年9月に、全2万5000アイテムを対象に、本部が店舗に対して発注すべきアイテムの種類と個数を推奨する支援システムを導入。ここ数年で進めてきた店舗発注に代えて、本部の推奨発注へと逆向きに舵を切り直した。

 本部がコントロールできる直営店については、本部主導でシステムの「自動発注」に切り替えてしまうこともできたが、それでは店舗の主体性が失われ、個店対応ができなくなる。店長や売り場担当者の思いが品ぞろえに全く反映されず、現場の士気も上がらない。価格も品ぞろえもすべて均一の金太郎飴的な100円ショップだけが全国に出来上がってしまう。セリアはそれを望んでいない。

 だから「推奨発注」にとどめ、最終的には店舗側で発注内容を承認・修正してもらってから、260~270社ある取引メーカーに発注データを送信するようにしている。

 本来、価格が毎日同じである100円ショップは特売が頻発するスーパーなどとは違い、日別の販売個数の変動が少ない業態だけに、需要の波動の振れ幅が小さく、過去の販売実績から需要予測を立てやすい特性を持っている。それだけに正確なPOSデータさえ得られれば、自動発注や推奨発注を実現しやすい。

 セリアは業界で初めて、需要変動が小さいという100円ショップならではの特徴を、リアルタイムPOSと発注支援という2つのシステムに結びつけたわけだ。

■変更履歴
7番目の段落において、1行目の冒頭を当初は「実はセリアはPOSシステムの稼働後、店舗に(以下略)」としていましたが、「実はセリアは店舗に(以下略)」と修正しました。POSシステムの稼働前から携帯発注端末「タッチワン」を導入したためです。 [2007/04/19 17:30]