近鉄百貨店・橿原店(奈良県橿原市)の接客サービス改革が定着しつつある。

 昨年4月の開店20周年をきっかけに全館改装を実施。同時に接客サービスを見直した。

 橿原市は大阪近郊のベッドタウンで、橿原店は同市の中心市街地に位置する。年商約250億円で、百貨店としては中堅規模。周辺も含めた橿原店の商圏人口は約50万人で、微増傾向にある。しかし、同市の郊外では2004年に大型ショッピングモールの「ダイヤモンドシティ・アルル」(核テナントはジャスコ)が開業した。その影響を受け、橿原店の2004年度の業績は落ち込んだ。

 苦境を脱するために、橿原店では十数人の組織横断チーム(クロス・ファンクショナル・チーム=CFT)を結成。「好感・好品百貨店」というコンセプトを掲げ、「商品力」「販売力」「販促力」「環境力(店構えや内装など)」という4つの観点で改善策を練ってきた。

 若年層の顧客の一部はアルルに流れたが、橿原店は中高年層向けの品ぞろえでは強みがある。「百貨店ならではの対面販売、コンサルティングセールスを強化する方向を目指した」(営業推進部の中川勝博部長)

 具体策として昨年4月から実施しているのが、「カスタマーズスタッフ」という制度である。ホテルや大型小売店などでは接客強化のために、専任の「コンシェルジュ」を置くケースもあるが、橿原店の規模では専任者を置くのは難しかった。そこで、店内各売り場の「販売担当係長」(売り場責任者)21人を「カスタマーズスタッフ」に指名し、連携してコンシェルジュの役割を果たす仕組みを作った。

 カスタマーズスタッフは腕章と、ヘッドセットを付けている。ヘッドセットはPHSにつながっており、カスタマーズスタッフ同士で通話できる。「ヘッドセットを付けてわざと目立つようにした。(若手店員ではなく)30~40代の責任者レベルに意識付けをして、率先して接客してもらうことが重要だ」(営業推進部の小林理・部長)

近鉄百貨店橿原店の「カスタマーズスタッフ」。婦人服や食品など各フロアの21人の売り場責任者が常時ヘッドセットを付け、互いに連携する[画像のクリックで拡大表示]

 店内のPHS同士の通話は電話料金がかからない。PHSは「0円」で買えるため、初期投資はPHSの事務手数料やヘッドセット代など約30万円である。

 顧客にとっては、目の前で即時に対応してもらえるため、「親切な対応」という印象が残りやすい。例えば、エプロンを購入した顧客が「刺しゅうを入れたい」と言った場合、その場ですぐに縫製担当売り場に連絡して、「今なら20分以内にできます」と回答している。買い回りの強化にもつなげる。顧客が求める商品のフロアが違う場合は、「○階にある」と伝えるだけではなく、その場で連絡して在庫の有無までを確認して案内している。

 接客強化策の効果もあり、個人消費が伸び悩むなか、橿原店の2006年度の売上高は前年度を上回る見込みである。来店客数は微減したが、客単価が数%伸びたという。