積水化学工業は,住宅リフォーム事業の営業強化のために携帯電話による営業支援システムを導入した。2005年から東京地区で導入し始め,2006年中には全国の営業担当者に利用を拡大。営業担当者の1カ月の売り上げが2倍近く上昇した例もあるなど,効果は如実に現れている。

 積水化学工業住宅カンパニーのリフォーム部門であるセキスイファミエス。全国に1000人以上の営業担当者を抱え,同社の「セキスイハイム」ブランドの住宅約40万世帯を対象に,リフォーム関連事業を推進する。

写真1●積水化学工業住宅カンパニー住環境事業部企画部の吉田明平担当部長写真1●積水化学工業住宅カンパニー住環境事業部企画部の吉田明平担当部長

 同事業の売り上げを伸ばすには,営業担当者一人ひとりの営業成績をどれだけ伸ばせるかにかかっていると言っても過言ではない。「しかし営業成績は営業担当者によって個人差がある。正直なところ,成績の良い優秀な営業担当者もいれば,そうでない担当者もいる」と,積水化学工業住宅カンパニー住環境事業部企画部の吉田明平担当部長は打ち明ける(写真1)。

 吉田担当部長は,営業担当者の営業スキルの差をこう分析する。「顧客への訪問回数が多ければ営業成績が上がるとは限らない。むしろ,適切な時期に適切な顧客にアプローチすることが好成績につながる」。限られた訪問回数の中でどれだけ“勝率”を上げられるかがキーになるというのだ。そのためには「営業担当者がどれだけ顧客のことを知っているかが重要になる」(吉田担当部長)。

 営業担当者が顧客を知り,絶好のタイミングで訪問して商機を逃さない──。この目的を達成するために積水化学工業が導入したのが,携帯電話を活用した独自開発の営業支援システム「ReformSystem」(Rsystem)だ。

“軽い”モバイル専用DBを用意

 積水化学工業は,「STREAM」と呼ぶ独自の顧客管理システムを構築している。通常は事務所のパソコンから専用線を経由してSTREAMにアクセスするが,STREAMのデータを営業担当者が所持する携帯電話機からも利用できるようにしたのがRsystemだ(図1)。同システムは積水化学工業とNTTドコモ,富士通ビー・エス・シー(BSC)が共同で開発した。

図1●積水化学工業が導入した営業支援システム「ReformSystem」(Rsystem)のネットワーク・システム構成
図1●積水化学工業が導入した営業支援システム「ReformSystem」(Rsystem)のネットワーク・システム構成
営業担当者がNTTドコモのFOMA携帯電話機から商談情報などを閲覧・更新できる仕組みだ。
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 Rsystemでは,モバイル用に新たにアプリケーション・サーバーとデータベース・サーバーを構築した。STREAMにも両サーバーはあるが,必要な情報だけを抜粋することで扱うデータの容量を抑え,処理速度の向上を図るためにモバイル用を分離することにした。また,STREAM側のデータベースのテーブル構造が変更になっても,モバイル側は影響を受けにくいというメリットもある。

 STREAMのデータベース・サーバー上の商談情報,履歴情報,利用者情報,顧客情報をモバイル用のそれと連携させる。営業担当者が所持するNTTドコモのFOMA携帯電話機には,iアプリで作成したRsystemのクライアント用アプリケーションを搭載した。FOMA携帯電話機からRsystemのアプリケーション・サーバーにアクセスして,モバイル用データベース・サーバーの商談情報や顧客情報などを閲覧・更新する。更新したデータは,STREAMのデータベース・サーバーのデータに定期的に反映される。

携帯端末には情報を残さない

 Rsystemでは,営業担当者はFOMA携帯電話機からNTTドコモの携帯電話網とインターネットを経由して,Rsystemのアプリケーション・サーバーにアクセスする。FOMA携帯電話機でRsystemを利用するために富士通のモバイル用ミドルウエア「Interstage Mobile Manager」を採用した。

 Interstage Mobile Managerは,業務システムとの連携だけでなくデータの圧縮送信やiアプリの自動再配布,新機種への対応など,業務システムを携帯電話機で利用するための環境をひと通り提供しているのが特徴だ。

 また,Interstage Mobile Managerが提供するセキュリティ機能を活用してリスクの低減を図っている。営業担当者が携帯電話機を外で使うとなると,どうしても紛失や盗難による情報漏えいの危険がつきまとうからだ。

 例えばFOMA携帯電話機とアプリケーション・サーバーとの通信はAES方式で暗号化し,情報漏えいを防ぐ。認証も,通常のIDとパスワードによる認証だけでなく,端末の固体認証も可能にしている。万が一携帯電話機を紛失,盗難した場合には,所有者がシステム管理者に通報すれば即座に携帯電話機からのRsystem利用を不能に設定することも可能だ。

 Interstage Mobile Managerの機能としては,サーバー上のデータを端末側にダウンロードする機能もある。しかし,Rsystemではあえてこの機能を外した。データをサーバー上に残したままにし,端末に保存させないシン・クライアント的な利用方法で情報漏えい対策を万全にするためだ。

売り上げが2倍になった担当者も

 営業担当者がRsystemを活用するシーンは,具体的には以下のようになる。

 営業担当者は,まず事務所のパソコンでその日の訪問スケジュールをチェックする。訪問の直前には,顧客の過去の訪問履歴や商談情報などをRsystemで確認。顧客のニーズに合ったリフォームを提案する。顧客訪問が終わると携帯電話機から商談の結果を逐一登録し,訪問記録をデータベースに残す(写真2)。訪問予定が突然キャンセルになった場合には,近辺の訪問可能な顧客を検索する。これにより,営業活動のムダを少しでも省けるようになった(図2)。

写真2●Rsystemの画面
写真2●Rsystemの画面
左は営業活動登録画面,右上は住宅の図面,右下は住宅の拡大図面。

図2●Rsystemの活用イメージ
図2●Rsystemの活用イメージ
携帯電話を使ってプレゼンテーションや商談結果の登録,顧客情報の検索などを行い,営業活動のムダをなくす。

 このようにして,Rsystemには毎月2万件近くの商談記録などが登録される。現場の営業担当者からは「リフォーム履歴の情報が整理されて,提案力が上がった」などと,評判は上々だ。Rsystem導入の効果は数字にも現れ始めており,営業担当者の中には,利用前に比べて1ヵ月の売り上げが2倍近く上昇したケースもあるという。

 また,携帯電話はプレゼンテーション機器としても活用できるようにした。リフォームで提案したい商品の静止画や動画ファイルなどをあらかじめ携帯電話機や外部記録媒体に記録しておき,客先のテレビに接続してプレゼンテーションを行う。重いカタログを持参しなくても済む上,その場で視覚的な説明をすることで「営業的な効果を高められる」(吉田担当部長)。

災害時の安否確認にも活用へ

 リフォーム営業担当者の強力な営業ツールとして定着しつつあるRsystemだが,まだまだ進化を続けている。今後は災害時の緊急対応手段としてRsystemを活用する計画も立てている。地震や台風などの災害時に,顧客に対して災害発生や安否確認のメールを一斉に送信する。

 顧客の家屋に損壊があった場合には,顧客が営業担当者の携帯電話にSTREAMを経由してメールで連絡すれば,速やかに対応できる体制を整える。2007年9月までにはこのサービスを開始する予定だという。