ワコールのシェイプアップ用ボトムインナー「スタイルサイエンス」シリーズのブランドマネジャー役である芝原和宏ワコールブランド事業本部インナーウェア商品統轄部商品営業部ファンデーション営業課マネージャー。写真右上は「おなかウォーカー」
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 ワコールのボトムインナー「おなかウォーカー」の販売枚数が、発売から半年弱の2006年12月末に80万枚を突破した。同製品を含むシェイプアップ用ボトムインナー「スタイルサイエンス」シリーズは、これで2005年6月の第1号製品から数えて累計380万枚を販売。スタイルサイエンスは同社ボトムインナー史上最大のヒットとなっている。

 ワコールによると、ショーツを除くガードルなどのボトムインナーの需要は微減傾向にあり、最近は年30万~40万枚でヒットといえる状態だ。従来の最大のヒットは、1981年に発売した「シェイプパンツ」シリーズの年間300万枚だった。

 スタイルサイエンスには、2005年6月に発売したヒップアップ効果を狙う「ヒップウォーカー」など2製品と、2006年7月発売のおなか引き締め効果を狙う「おなかウォーカー」など2製品がある。スタイルサイエンスは、単体でも利用できるし、ショーツと組み合わせても利用できるボトムインナーで、着用したまま歩くことによってシェイプアップ効果を期待できる。

 おなかウォーカーは、伸縮度合いの異なる生地を組み合わせた構造によって圧力差を生み出し、歩行中に腰のひねりを大きくする動きを促す。これによって、おなかの筋肉が活発に動き、おなかが引き締まりやすくなる。ワコールは「週5日着用し、1日6000歩以上歩くと1カ月で効果が期待できる」とアピールしている。

ガードルでもショーツでもない新分野発掘

 おなかウォーカーをはじめとしたスタイルサイエンス・シリーズが大ヒットした要因は、新たな潜在需要を掘り起こした点と、口コミを重視した販売・宣伝活動にある。

 ワコールは、25~35歳の働く女性をコアターゲットとした新たなインナー製品を開発しようとしていた。しかし、いわゆるガードルはその重さや締めつけ感を嫌がる女性が増えていた。そこで、同社の人間科学研究所が「身体の変えたい部位」について消費者を調査した。ここで「最近たるんできたお腹回りを引っ込めたい」「たるんできたお尻を引き締めたい」という意見が目立った。

 着用したときだけ体型を補整するガードルではなく、体型変化を促すボトムインナーなら受け入れられるのではないか。実際、ターゲット層にはプロポーション維持のために「腹筋をしている」「歩くよう心がけている」という人が多い。そこで、「日常生活での歩行を利用してシェイプアップできる製品を開発しようと決めた」とマーケティング責任者である芝原和宏ワコールブランド事業本部インナーウェア商品統轄部商品営業部ファンデーション営業課マネージャーは説明する。

 ガードルともショーツともひと味違うスタイルサイエンスは、こうして産声を上げた。新分野の製品なので、販売員2000人以上に購入させ、着用効果を実感してもらってセールストークを磨いた。こうして蓋を開けてみると、異例の大ヒット。新たなインナー市場を開拓するという狙いは見事に的中したわけである。

“部活動”に見立てて、継続を促す


「スタイルサイエンス」をはじめ、ワコール商品すべてのウェブマーケティング戦略を担当する顧客コミュニケーション推進室の大薮範子室長。
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 2日さぼるとメールで叱られる---。実はこの製品、購入者の心理を上手に突いた、ユニークな宣伝手法を2006年7月から採用している。購入者を「スタスタ部」と呼ぶウェブサイトを使った利用促進活動に勧誘。30日間着用し続けるよう励まし、着用後の効果を告白してもらっているのだ。「部活」という体裁を採ったのは、シェイプアップに気軽に取り組んでもらい、購入者同士で和気あいあいと励まし合ってもらいたいからである。

 一般にシェイプアップ製品やダイエット製品は、購入しただけで満足してしまう人が多い。しかし、ワコールはおなかウォーカーの利用効果に自信があった。購入者にきちんと履き続けてほしい。そうすれば効果を自然と口コミしてくれる可能性が高まる。また、こうした機能を売りにする商品に対しては、インターネット上の口コミ情報を欲する人が多い。

 そこで、顧客コミュニケーション推進室の大薮範子室長は、おなかウォーカーの発売に合わせて“部活動”を始めることにした。この部署はワコールのウェブマーケティング全般を担当。大薮室長は、「スタイルサイエンスは購入してすぐに効果が出るものではありません。使い続けて効果を実感してもらうことが重要。お客様の声を真実の声として公開する仕掛けも作りたかった」と語る。

 大薮室長は、スタスタ部の利用者を「愛すべきナマケ者」と想定し、スタスタ部の具体的なコンテンツ内容を決めていった。「機能性をうたう製品に飛びつくお客様は、飽きっぽい人が多く、部屋中にダイエット製品がいっぱいある。実際、私たちだってそうです(笑)。とにかく飽きさせないコンテンツにすることが大切」と説明する。

 スタスタ部に“入部”するには、まずスタイルサイエンス専用サイトを訪問して、製品ラベルに記載してある商品番号と製造番号、誕生日、メールアドレスなどを入力する。メールを受け取れば入部完了だ。

 部員になったら、歩数や体重、体脂肪などをサイトに毎日入力。すると日々の変化がグラフとして表示される。書き込みは携帯電話からもできる。毎日記録するとマイルがもらえ、貯まったマイルは旅行券などいろんな商品と交換できる。

 さらに、それでもスタイルサイエンスの継続的な利用ができないという人のために、30日間の集中コース「愛のムチ プログラム」を用意。これを利用すると、もらえるマイルが通常よりも増え、2日間さぼると叱咤のメールが飛んでくる。プログラム終了後、効果への感想などのコメントを任意で提出。コメントはサイト上でニックネーム付きで紹介され、部員以外でも見ることができる。

 また、部員同士が励ましあえる環境を築こうと、部員専用の掲示板「Walk Talk」も提供。このほか、部員以外の人も閲覧できる20代後半のフリーライターによるスタイルサイエンス実体験ブログも、専用サイトに掲載している。

 部員登録者数は、2007年1月中旬までで約1万3000人。その半数が愛のムチ プログラムを利用し、さらにその半数がコメントを提出してくれている。また部員にアンケート調査をしたところ、約8割の人が会話やブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やメールを通じて友人や同僚、家族に口コミをしたという。「おそらく部員でない購入者はここまで高い確率では口コミをしてない。だからこそ、こうした取り組みが大切なのだ」と芝原マネージャーは強調する。