「サントリーオールド」のブランドマネジャーに任命された高田めぐみ氏。サントリーの酒類カンパニー洋酒事業部企画部に所属する
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 団塊世代が20代のころに、高額だがあこがれた「サントリーオールド」が息を吹き返している。

 同製品の販売数は1980年の1240万ケース(1ケース=12本)を頂点に、2005年は51万ケースまで落ち込んだ。だが団塊世代の大量退職が始まる2007年を目前に復活。味とデザインを2006年3月7日にリニューアルして数々の宣伝施策を打ったことが奏功し、2006年6月以降は対前年同月比が12年ぶりにプラスに転じ続けている。
 
 1950年に発売されたサントリーオールドの復活の要因は、団塊世代に的を絞ったマーケティング活動にある。団塊世代のウイスキーへの嗜好を今までと違うやり方で丹念に調査してから、味わいを変更。また、商品名を「The SUNTORY OLD」に変えてボトルに優雅な書体で記すなどして、現代的な高級イメージを訴求した。さらに、団塊世代の間で「もう一度オールドを飲んでみよう」という口コミが広がる仕掛け作りに奔走した。

 サントリーオールドのブランドマネジャーに起用されたのは、酒類カンパニー洋酒事業部企画部に所属する、まだ20代半ばの高田めぐみ氏。「両親が団塊世代なのでターゲット層の気持ちをくみ取りやすい」と上司が判断した。「焼酎などの台頭でウィスキー市場は縮小傾向にあります。だからオールドの巻き返しで、小売店の店長さんやバイヤーさんが『自信を回復した』と言ってくれたのがうれしい」と微笑む。

味わいを消費者視点で抜本的に見直し

 高田氏がブランドマネジャーに任命されたきっかけは、2005年夏に洋酒事業部主催で実施した新商品開発のための“異例”の試飲会にある。世代別に6人ずつの消費者グループを数十組集め、6種類のウイスキーの原酒を飲んでもらったのだ。「この試みはサントリーでは初めて。ブレンドしないとそれぞれの原酒のくせが強すぎるからです」(高田氏)。それだけウイスキー市場のてこ入れには抜本的な改革が必要だと感じていた。

 このとき、団塊世代を集めたグループから「この原酒はオールドっぽいね」という意見が出た。しかもその原酒の支持率は、団塊世代が一番高かった。シェリー樽原酒である。シェリー樽原酒の比率を高めた新しいサントリーオールドを作れば売れるのではないか――。こうして新オールドの開発プロジェクトがスタートし、高田氏がブランドマネジャーに任命されたのである。

 サントリーオールドは約10種類の原酒をブレンドして作る。高田氏は約200通りのサンプルを用意して、100人のモニターに家で試飲してもらった。「このホームユーステストは通常は1回。今回は3回やっていたら、『工場でのビン詰め作業の納期(2006年1月)が迫っているから急いでほしい』と製造部門に言われてしまいました」と高田氏は苦笑する。

団塊世代とのリアルな接触機会を増やす

 新しい味わいを模索する一方で、高田氏はプロモーション戦略も練り始めた。その鍵はサントリーオールドに対して「なつかしさ」と「よい商品」という思いを団塊世代から強く引き出すことにあると考えた。

 そこで年末の繁忙期だったにもかかわらず、2005年12月の第1土曜日に全国から100人近い営業担当者を集め、店頭販促ツールの在り方を議論した。ここで高田は、「ベテランの人たちがすごく乗り気になって『オールドっていうのはね・・・』と語り出し、いろんなアイデアを共有できたでかじゃなく、結束力が高まりました」と予想以上の手応えを得た。

 こうして迎えた2006年3月7日、新サントリーオールドが店頭で大々的に披露された。営業担当者をのべ2800人投入し、わずか数日間で全国8万店の小売店の平場に特設陳列コーナーを立ち上げたのである。「昔はバーやスナックにこうして大量にオールドが並んでたなあ」と思わず足を止めてつぶやく団塊世代の姿が目についたという。

 さらにリニューアル発売後の注目すべきプロモーション施策は、約780万人の会員の70%が50代~60代が占める旅行会社クラブツーリズムとの協業だ。「団塊世代は人生経験が豊富でいろんなことを知っています。だから、マス広告を大量に打つよりも、リアルな場での消費者同士の口コミが響くはず。そして団塊世代の一番の関心事は旅行」という高田氏の判断である。

 具体的には、サントリー社員がクラブツーリズムの旅行ツアーに同行して計1万人にミニチュアボトルを配布したり、ウイスキーをおいしく飲むセミナーを十数回開催したりした。クラブツーリズムのほうからも自発的に、蒸留所ツアーを企画してくれた。
 
 そこにはうれしい誤算もあった。高田氏は団塊世代にはまだインターネットを介した口コミの広がりを期待してなかった。だが、ブログを趣味にする男性がクラブツーリズムの会員にもいて、おいしい飲み方をブログで紹介してくれたのだ。「団塊世代を調査すると、パソコンを購入したいという人が多い。今後、退職して時間ができればブログを書き始める人が増えるのではないでしょうか」と高田氏は分析する。
 
 サントリーの調査によると、今回のリニューアルを知ったきっかけは店頭が53%でトップ。ウェブサイトの34%が続き、テレビコマーシャルは28%にとどまった。「実はウイスキーを開発・宣伝する際、ここまでターゲット層を絞り込んだことはなかったのです」と、高田氏は今回の成功の秘けつを明かす。

 新生オールドの購入者は7割が50~60代。また購入者の3割強は、オールドの飲用を中止していた人たち。ウェブアンケートを実施したところ、「20代のころによく飲んた。語り合った友人や好きだった女性、妻とのデートを思い出す。久しぶりに飲んでみたくなった」という意見が目立った。