イオンは、新しい会計年度(2007年度)に当たる2月21日から、65歳まで定年を延長する新人事制度を始めた。実質的には3月21日から制度の適用が始まる。

 対象者は、正社員約1万5000人のうち、2007年度中に60歳を迎える約240人。対象者は定年延長か再雇用契約社員になるかを任意に選択できる。対象者の9割が継続勤務し、そのほとんどが定年延長を選択すると見込んでいる。

 定年延長を選択した場合、役職定年はなく、60歳以降もそれ以前と同じ職位・職務・賃金で働くことができるのが大きな特徴。昇格もできる。正社員以外のパート社員などについても、65歳まで働ける制度を別途設ける。

 2006年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法は、従業員に65歳まで就労機会を与えることを企業に義務付けている。このため、企業は人事制度の変更などの対応を急いでいるが、60歳定年退職後の再雇用などを導入する企業が多く、イオンのように定年延長に踏み切る企業は珍しい。

再雇用制度ではモチベーション低下も

 イオンも、2006年度に再雇用制度を導入し、1年間運用した。しかし、再雇用を選んだのは対象者の約7割にとどまり、3割が退職した。「対象者に面談したところ、『もっと安定した働き方があってもいい』という声が多かった。再雇用では役職の見直しなどが行われるため、働く人のモチベーションが低下していることも実感した」と鴫田英志・執行役人事本部長は話す。

 イオンでは、約1万5000人の正社員のうち、今後4年間で約1100人が60歳を迎える。他企業に比べれば高齢者比率は低いものの、流通業では人手不足が深刻化しつつある。「今後の成長を考えると、多数の人材が外部に流出したり、(モチベーション低下で)一歩引いた形でしか力を発揮できないのでは問題がある。そのため、1年で方向転換した」(鴫田本部長)という。2006年度の制度で既に再雇用された人も、今回の新制度に基づいて正社員に復帰できる。

 イオンでは3年前に年功序列型の賃金体系を全廃し、職位・職務のみで賃金を決めており、定年延長によるコスト増はない。「ただし、若手社員のモチベーションが低下する懸念がある。もともと、当社の制度では20代でも幹部社員になれる。(若い人のチャンスを奪う制度ではないことを)今後、若手社員に具体的に見せていく必要がある」と鴫田本部長は語る。

 新人事制度では、60歳になる人は本人の選択で「希望するホームタウン」で勤務できるルールが盛り込まれている。イオンは三重県の地場スーパー「岡田屋」などを起源としており、60歳前の世代の社員には三重県や西日本の出身者が多い。ホームタウンの希望地域には偏りがあるため、「調整は難しいが、原則として希望に応じるように調整を進めている。店長ができる人にはホームタウンに戻っても店長を務めてもらえるような調整も必要」(鴫田本部長)という。

 イオンでは2004年までに大規模なIT(情報技術)投資を完了させ、店舗業務のIT化が急速に進んだ。「出勤情報の入力から、給与関連の申請まで全てシステム化され、システムなしでできる仕事はない。60歳前後の人のITスキルには個人差があるが、ITスキル向上の研修の仕組みを充実させている」(同)という。