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| ●クロスカンパニーの会社概要 |
「earthのファンになって4年です」「私は6年。ママになってもearthを着続けたい!」
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)には、若い女性が好きなブランドの情報や意見を交換するコミュニティーが数多く立ち上がっている。中でもファンの熱い書き込みが目立つのが、カジュアルブランド「earth music&ecology(emae)」のコミュニティーだ。
emaeを展開するクロスカンパニー(岡山市)はアパレルSPA企業として製造から販売まで一貫して自社で行う。駅ビルやファッションビルを中心に、emaeや「イーハイフンワールドギャラリー」など5ブランド9業態を展開する。石川康晴社長が紳士服チェーンから独立し、地元岡山に1999年にemae1号店を出店して以来、7年で店舗網は95店に拡大し、4連続の増収増益を記録した。2007年1月期の売り上げは115億円に上る見込みだ。
SPAの代表格であるユニクロは、フリースなど独自性の高い商品開発と、テレビなどのメディアを活用した広告宣伝で、マスマーケットに広く訴求する。これに対して石川社長は「顧客を蓄え、長く付き合っていくことを重視する」と話す。
顧客向けポイントカードの発行総数は約70万枚。このうち、3カ月に1度購入する「顧客」の構成比は客数で25%、1カ月に1回購入する「優良客」は5%を占め、これらの固定客からの売り上げは全体の5割を超える。固定客を主な対象とした販促キャンペーンでは、DM(ダイレクトメール)送付数に対する実際の来店者数、すなわちレスポンス率は、全店平均で3%に上る。「アパレルの平均レスポンス率は1%未満なのでかなり高い」(石川社長)。中には8%を超える店もある。
流行の影響が大きいファッション業界で、長期にわたって顧客との関係を維持できるのはなぜか。鍵を握るのが、販売スタッフの接客力だ。
「私の名前を覚えて、呼び掛けてくださるお客様も多い」と話すのは、埼玉・大宮の駅ビル「ルミネ1」でemaeの店長を務める岩崎芳恵氏だ。「特に目的がなく来店されたお客様にも、会話の中から潜在的なニーズを見つけて商品をお薦めしている。試着の際も、ただ『お似合いになりますね』と言うのではなく、どこがかわいいのか、なぜきれいに見えるのかを分析して、お客様との共感を醸成する」。「褒めちぎる、押し付ける」の対極にある岩崎店長の接客力は、大宮店の業績を前年比130%と大幅に伸長させ、有力ブランドがしのぎを削るルミネで大幅な増床を勝ち得る原動力になった。「入社以前にファッション業界での接客経験はなかった。会社が私を育ててくれた」
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| 主力ブランドの「earthmusic&ecology(emae)」は、若い女性をターゲットにして、ファッションビルや駅ビルの人気テナントとなっている(上の写真は大宮ルミネ1内の大宮店)。ノベルティーがもらえるキャンペーンを機動的に実施し、固定客の来店を促す(左下) |
「ホテルはホスピタリティーを競争力の源泉として位置づけ、徹底した接客教育を行っている。ところが、同様に接客が重要であるはずのアパレルでは、顧客満足度やホスピタリティーの向上がおろそかになっている。当社の社員には、ホテルの従業員を超えるホスピタリティーを身に付けさせたい」。こう公言する石川社長は、「販売スタッフは契約社員中心」というアパレル業界の慣例にならわず、創業以来正社員採用を貫く。
「ファッションが好きな女性を、高いとはいえない報酬で雇用し、使い捨てにしてきたのが業界の歴史。正社員採用とすることで働く環境を安定させてモチベーションを上げ、管理職や本部スタッフへの登用を積極的に行っている」と総務人事統括マネージャーの赤井祥彦氏は話す。
新入社員を先輩社員がマンツーマンで指導する「シスター制度」も特徴の1つだ。店舗内の作業を様々な工程に分け、難易度に応じて6つのステップにグルーピングする。各ステップの作業をシスターが指導し、習得度をチェックすることで、接客スキルの底上げを図る。
第1ステップでは「笑顔」「電話対応」など最低限のスキルを身に付ければいいが、第2ステップでは「会計から見送りまでのレジ対応」「軽衣料の提案・販売」などの習得が課される。さらに「個人売り上げ予算達成意識」「重衣料の提案・販売」「在庫状況を見ながらの商品提案」などへと難度が上がり、最終の第6ステップでは「店の売り上げ予算の達成意識」までが求められる。
各ステップの習得期間は2週間だが、シスターが「まだ不十分」と判断した場合には期間を延長する。各ステップの修了時や延長時には、今後の重点目標をシスターが詳細に書き込んだレポートを作成して渡す。「単なるチェックリストでなく、手書きという点がミソ。『ここまで自分を見てくれているんだ』という信頼感があれば、新人のやる気も上がる」と岩崎店長は話す。
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| 先輩社員は新入社員の接客スキルを詳細に観察し、次の工程に進むかどうかを判断する(左)。ファッション企業らしからぬ「社訓カード」で、企業理念を浸透させる |
2006年度から開始したのが、全販売スタッフが参加する接客ロールプレイングコンテスト「ベストオブクロス」だ。全国大会で入賞したスタッフにはヨーロッパ旅行の機会が与えられ、一流ホテルの宿泊など、本場のホスピタリティーを実体験するチャンスが与えられる。
ただし「コンテスト自体が目的なのではなく、コンテストを軸にタテとヨコの学習機会を充実させている」と石川社長は話す。「タテ」の学習機会とは、コンテスト前に開催する丸1日の事前研修。さらにコンテスト後には、6カ月にわたってスキルを復習する1泊2日の「接客ロールプレイング塾」も実施する。「コンテストの『熱気』を持続し、接客スキル向上への意欲を喚起し続けるため」(赤井マネージャー)だ。
忙しい現場からスタッフを集め、ホテルなどの会場を借りる研修には、かなりのコストがかかる。コスト削減のため、赤井マネージャーが研修の回数を減らすことを石川社長に提案したところ、「人への投資を惜しむな」と叱責されたという。
店舗予選、地区予選、全国大会というコンテストの場は、優れた接客スキルを「ヨコ」展開する場となる。岩崎店長は第1回大会の優勝者だが、「コンテスト会場で、普段なかなか知る機会のない他店の販売スタッフのスキルを直接学ぶことができ、自分の接客にも応用できた」と話す。
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| ベストオブクロスで優勝したemae大宮店の岩崎芳恵店長(左)は、ほかの販売スタッフに接客ノウハウをきめ細かく伝える |
「お客様第一」「志」「愛情」。クロスカンパニーでは、こんな社訓を印刷した名刺大のカードが全社員に配られている。若い女性中心の企業にしては古くさいとも感じられるが、意外にも「毎日朝礼で社訓を唱和することで、連帯感が生まれる」と岩崎店長は話す。販売スタッフがそれぞれノルマの達成に追われる販売の現場では、ともすると人間関係もぎくしゃくしがちだ。この中で個人をつなぎ、チームとしてのまとまりを生み出すのがこの社訓であり、「日本一の販売員を育てる」という石川社長の経営理念といえるだろう。
社員のキャリアと会社の成長を両立させる店舗を拡大し、企業規模が大きくなると社員教育が追いつかず、接客の質が落ちる。これはSPAならどこでも直面する課題だろう。社員には「今の状態は100点満点中60点」と言っているが、決して危機感を煽あおるためだけではなく、改善すべき点はまだまだあると実感している。 アパレル業界の雇用は「若い女性を短サイクルで回して、年を取ったら辞めてもらえばいい」という方針が一般的だ。この慣習に逆らって全員を正社員採用とし、社員のキャリアと企業の成長を両立させることを目指している。昨年海外ブランドを集めた「KiwaSylphy」を表参道ヒルズに出店するなど、顧客の年齢層や客単価が高い業態の開発に乗り出している。こうしたブランドではより洗練された接客が必要となり、emaeなどでスキルを蓄積した社員が活躍する場となる。経験を積み、年齢の上がった社員はお荷物ではなく、高い付加価値を生む宝だ。 研修やコンテストで接客技術を上げる努力を重ねてきたが、本当に必要なのは「道徳教育」ではないかと感じるようになった。ご飯を食べて「ごちそうさま」と手を合わせる、乗り物でお年寄りに自然と席を譲る。こうした人材が育てば、「ホテルよりホスピタリティーのあるアパレル」という目標を実現し、業界全体の地位向上に貢献できると考えている。(談) |