イトーヨーカ堂が展開しているネットスーパーの例
[画像のクリックで拡大表示]

 イトーヨーカ堂は2001年3月から一部店舗で実験を続けてきたネットスーパー事業を、2008年2月期中に首都圏全域に広げる。インターネットで注文を受け付け、最寄りのヨーカ堂から直接、生鮮品や飲料、日用品などを各家庭に配達する。首都圏に約120店あるヨーカ堂のうち、商圏が重なる40店舗を除いた80店がネットスーパーの対象店になる。これで首都圏全域をほぼカバーできる。サービスエリアの拡大に先立ち、1月17日には社内に「IT事業プロジェクト」を立ち上げた。

 セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長はこのところ、「市場が縮小するなかで、小売店は店内でお客様が来店するのを待っているだけでは駄目だ。自分から店舗の外に出て営業する攻めの姿勢が必要」と説いている。そうした表れの1つがセブン-イレブンが始めている近隣顧客への「御用聞き」サービスだが、これをヨーカ堂に当てはめると、ネットスーパーが具体策の1つとして掲げられた。

 ヨーカ堂のネットスーパー事業は2001年3月までさかのぼるが、1店目の葛西店で実験を始めてから2005年8月に2店目で開始するまで、実に4年半もの時間を要している。ネットスーパーに期待をかけながらも、採算の見極めがつくまでにかなりの試行錯誤が続いたことを意味している。現在は9店でサービスを提供しているが、ようやく今年3月からの2007年度中には、首都圏全域にサービスを広げる決断を下した。

 現在ネットスーパーの注文は、該当店舗にある個別のパソコンに入るようになっているが、店舗数が増えてきた段階で、複数店舗の注文をを地区ごとにまとめて処理できるシステムに切り替えることを検討している。

利用者の大半が専業主婦だった

 これまでの9店での実績から、ネットスーパー事業の特徴も見えてきた。買い物1回当たりの顧客の購入単価は、該当店舗での通常の買い物に比べてネットスーパーは2倍多い。週に1度のまとめ買いが多いからだ。ネットスーパーでは新聞チラシに掲載された特売品も購入できるため、チラシが入る日はネットスーパーの売り上げも通常の1.5~2倍に跳ね上がることも分かった。

 ヨーカ堂にとって意外だったことは、ネットスーパー利用者の半数以上が専業主婦だったことだ。注文時間もヨーカ堂の予想に反し、朝6~8時と、1日の中でも早い時間帯に最も集中する。

 ネットスーパーというと、買い物に行く暇がない「仕事を持つ女性」の利用が大多数を占め、注文は彼女たちが自宅に戻る夜間に増えるのではないかと考えられた。ところが、ふたを開けてみると、パソコンを立ち上げながら自宅で家事をこなす専業主婦がネットスーパー利用者の多数派で、彼女たちは新聞チラシが来る朝に、その場でパソコンから注文を出し、配達時間もその日の自分の都合に合わせて指定してしまう。こうして、その日の残りの時間を有効に使うのだ。

 さらに詳しく調べると、ネットスーパーを利用する専業主婦の多くが、ネットスーパーの該当店舗を日常的にもよく利用していることも分かった。彼女たちは買うものによって、店舗とネットスーパーを使い分けている。

 つまり、こういうことだ。ヨーカ堂がネットスーパーを開始した当初、利用者は依然として野菜などの生鮮品は自分の目で商品を確かめながら店舗で買い、一方で特売の加工食品や、米や飲料といった重くて、しかも買う商品がいつも決まっているものはネットスーパーで購入し始めた。ネットスーパーに少しずつ慣れていくと、生鮮品まで買う人が現れた。そして今では、注文のほとんどに生鮮品が混じるようになってきたという。顧客にしてみれば、「いつも利用しているヨーカ堂のあの売り場に並んでいる、あの野菜なら、ネットスーパーで買っても大丈夫だろう」と、賢く学習していった結果といえる。

 ネットとはいえ、スーパーのメイン商材が野菜などの生鮮品であることに変わりはなく、生鮮品まで売れてこなければ、ネットスーパーはなかなか採算に乗ってこない。

 ヨーカ堂は過去6年のネットスーパーの実験から、「生鮮品までネットで買ってもらえるようになるには、顧客の店舗ロイヤルティーが相当高まっていなければならないことを学んだ」という。ネットスーパーは、普段ヨーカ堂に来ない顧客を新たに開拓するためのツールというよりも、既存の店舗顧客へのサービス拡大策なのだ。