営業地域の拡大に伴って今年6月に社名をミニット・ジャパンからミニット・アジア・パシフィックに変更した山口康寿CEO。経営危機に瀕していた1999年にヘッドハントされ、同社を再び成長軌道に乗せた。
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 働く女性に人気の靴修理店「ミスターミニット」を運営するミニット・アジア・パシフィック(神奈川県川崎市)は、3期連続増収の好業績を背景に2006年は攻めに転じている。90年代末に経営危機に瀕していた同社だが、今年6月には営業地域の拡大に伴って社名をミニット・ジャパンから変更した。

 まず今年2月、ベルギーを創業の地とするグローバルなミニットグループからMBO(経営陣による企業買収)によって独立した。6月にはカナダ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドのミニットも傘下に収め、社名を変更。山口康寿CEO(最高経営責任者)の「グローカライズド・カンパニー(グローバルな経営とローカライズされた営業)」という経営理念の下、成長拡大路線をまい進する。

 例えば日本では、立地や客層を絞り込んだ2タイプの新たなミスターミニット店舗を開発。ファッション感度の高い女性客向けと男性客向けの高級店舗だ。従来のミスターミニットはターゲット顧客を幅広く捉え、百貨店内や駅周辺を中心に全国約260店舗を展開。スピーディーな靴修理サービスがうけて、多くの女性顧客の支持を得ている。婦人靴のヒールは容易にすり減るため、リピーターも多い。

 新タイプの2つのミスターミニットは、いずれも百貨店市場の占拠率を高める狙いがある。店舗デザインを高級な雰囲気に変え、百貨店の顧客が好むようにする。女性客向けの高級店舗と男性客向けの高級店舗を開発しており、女性客向けはすでに有楽町西武に1号店をオープンさせた。「今後さらに消費の2極化が進むのは明らか。百貨店の紳士靴売場に併設する形で、男性客向けの高級店舗も早ければ年内にオープンさせたい」と、山口CEOは力強い。

過去にゴディバ、イブ・サンローランなどを経営

 山口CEOは1999年にミニット・ジャパンにCEOとして参画するまでに、イブ・サンローラン・パルファン、ゴディバ ジャパン、カルバン・クラインなどブランド企業の日本法人代表を歴任。1988年まではスーパーマーケット大手のユニーで企画部に所属していた。同氏は、「同じ商品を同じ価格、同じイメージで、多数の店舗で売る。スーパーもブランド企業も経営のやり方に共通点が多い」と語る。

 ミニット・ジャパンが絶頂期だったのは1991年。売上高が110億円を超え、営業利益は30億円以上あった。ところがそこから一気に業績が落ち込んだ。山口CEOが入社した直後の1999年は、最大で614店あった店舗数が366店まで減少し、売上高は70億円弱、営業利益はわずか数億円となっていた。

 ミニット・ジャパンの業績は営業利益で見ると1999年を底に右肩上がりで伸びている。売上高のほうは2002年に50億円前後まで落ち込んだものの、その後は3期連続で増収となり、2005年は70億円に迫る結果となった。2000年8月に約10年ぶりに既存店の対前年同月比が100%を超え、2002年8月以降はほぼ毎月プラスとなっている。

 この改革の最大のポイントは、分かりやすい戦略をトップである山口CEOが社内に徹底的に発信し続けたことにある。そして早く成果を出せたことも大きい。「成果を出したトップが言うことなら、社員はみんな納得してついてきてくれる」(山口CEO)。具体的な戦略とは、売上高によって店舗を4通りに分類して強化・改善・撤退のルールを明確化し、さらに立地戦略を変更することだった。

 99年当時に多くを占めていた年間売上高1000万円未満の店は撤退。1000万円台の店は直営から業務委託に切り替えた。新規出店は年間2000万円以上を見込めるものに限定。4000万円を超す店舗は「ゴールデンショップ」と位置付け、本部が重点的に支援することにした。その背景には、山口CEOの「ミニットは人件費が高いビジネス。できない子(店舗)はあきらめ、できる子に経営資源を集中すれば、損益分岐点を超えた後は一気に利益が伸びる」という考えがあった。

 併せて、99年までゼロだった鉄道駅周辺への出店を積極化させた。99年時点の出店場所は百貨店内が57%、スーパーマーケット内が35%。これが現在では、百貨店内が59%、鉄道駅周辺が18%、スーパーが9%となっている。靴修理を望む顧客は、比較的裕福な人やファッション感度の高い人が多い。だから、百貨店内に出店するのはよいが、地方のスーパーだとニーズがあまりなかったのである。一方、首都圏などの地下鉄駅周辺には高い潜在ニーズがあった。

 さらに、新宿など狭いエリアに店舗が多数ある地域では、店舗スタッフを時間帯によって異なる店舗へ移すといった工夫をして、人件費を抑えている。「人件費が売上高の4割に相当するため、利益率を高めるためにはこうした工夫が欠かせない。また、靴修理は技術を要求するので、基本的にパート社員を雇いづらい。トレーニングセンターで正社員を教育し、店舗に配している」と山口CEOは説明する。