データセンターやサーバールームといったITインフラビジネスで実績を持つ仏電機大手シュナイダーエレクトリックが日本における事業拡大に向けて準備を進めている。ITインフラ関連のハードウエアや管理ソフトに加え、インフラのライフサイクル全体を支援するサービスビジネスを始める考えだ。同社でIT事業を担当するフィリップ・アルソノ(Philippe Arsonneau) シニア・バイスプレジデントに聞いた。

(聞き手は桔梗原 富夫=日経BPイノベーションICT研究所


データセンターやサーバールームなどITインフラの設計、構築、運用を支援する事業のポテンシャルをどう見ているか。

写真●シュナイダーエレクトリックのフィリップ・アルソノ氏
仏電機大手シュナイダーエレクトリックでIT事業を担当するフィリップ・アルソノ シニア・バイスプレジデント
[画像のクリックで拡大表示]

アルソノ氏 少し整理しながらお答えしたい。大別するとデータセンターには三つのエリアがある。まず、企業競争力と直結している自社データセンターがある。極めて高い可用性が求められるような金融業のデータセンターが相当する。

 情報のサプライチェーンを担う証券会社のデータセンターはわずかなダウンタイムも許されない。投資家は今この瞬間に起きていることを把握し、瞬時に多額の売買を意思決定する。数秒でも情報のサプライチェーンが滞れば、莫大な取引を支える証券会社のリアルタイムビジネスが成り立たなくなる。

 それだけに証券会社や銀行においてデータセンターの可用性を高めたいというニーズは引き続き強い。最近はエネルギーコストを気にする企業も増えている。複数のデータセンターを運用している企業は多額の電力コストを投じてきたため、データセンターの統合などによってコストの最適化を図る機運が高まっている。

 このとき証券会社や銀行には、自社データセンターに統合するか、あるいは外部にアウトソースするか、大きく二つの選択肢がある。顧客がどちらの選択肢を選んでも、シュナイダーは支援できる。

 二つ目のエリアとして、サーバーやストレージのリソースを提供するコロケーション事業者やクラウドサービス事業者などのデータセンターがある。データセンターそのものを提供するこれらの事業者には、電力供給システムや冷却システムを含め、建屋全体の可用性を99.99999%に高めることが求められる。

 ビジネスにおけるITの重要性は今後も高まり続ける。サーバーやストレージの設置スペースやリソースそのものをタイムリーに提供し、なおかつ堅牢なサービスを提供するデータセンタービジネスへのニーズは増える。

 コロケーション事業者やクラウドサービス事業者はニーズに応じて、データセンターの能力を成長させていく必要がある。ここでもシュナイダーエレクトリックは貢献できる。

 三つ目のエリアはビジネスの競争力に直接影響を及ぼさない、自社で保有しているデータセンターやサーバールームである。本業のビジネスをサポートする位置付けだ。

 こうしたタイプのデータセンターにおいては、より高効率なUPS(無停電電源装置)や冷却システムの大きな市場が既に広がっており、シュナイダーは様々な製品やサービスを届けている。例えばUPSについて米APCを傘下に納めた。

 一番目と二番目の市場については、「データセンターのライフサイクルを通じて成長させていきましょう」という提案が経営者に響くため、引き続き成長していくとみている。

金融業やクラウドサービス事業者にとって長期にわたりデータセンターを改善していく意味はあるだろう。市場の大半を占める三番目のエリアはどうか。例えば、製薬会社など遺伝子解析に多くのコンピュータを活用している企業で、データセンターの効率化によって新薬開発のコストを減らすといったメリットは期待できないか。

アルソノ氏 データセンターの改善によって企業競争力を高める余地は確かにあるが、あらゆるケースで大きなメリットがあるとまでは言い切れない。研究開発や事業活動に占めるデータセンター費用の割合に依存するからだ。割合が売上高の1%に満たないのであれば、データセンターのコスト改善による本業の収益へのインパクトはそれほど大きくはならないだろう。

 一つ言えるのは、三番目を含むすべてのエリアに関して、日々の運用の効率化だけではなく、改善した際の効果を見込むうえで、現状のコストを正しく把握する仕組みが必要だということである。

 大規模なデータセンターか中小規模のサーバールームかを問わない。データセンターやサーバールームにかかっている費用は思いのほか多いかもしれないし、その逆かもしれない。コストをきちんと見えるようにすることで、データセンターやそこで必要になるエネルギーコストの最適化をうまく進められる。