スルガ銀-IBM裁判など大手ベンダーとユーザーの訴訟問題がクローズアップされている。そんななか、ユーザーが本気で対策に取り組まない限り、ITベンダーとアンバランスな契約を交わしてしまうリスクが増加している。

 こうした課題について日比谷パーク法律事務所の上山浩弁護士に聞いた。上山氏はかつて富士通で汎用機の開発に携わった異色の経歴を持つ。スルガ銀-IBM裁判(関連記事)ではスルガ銀側の訴訟代理人も務めている(裁判中の案件に関してはノーコメント)。上山氏は「契約リスクを少しでも軽くする取り組みは大手ベンダーでは充実する一方。それなのにユーザー側の取り組みは10年前とあまり変わっていない」と警告を発する。

写真●上山浩弁護士
写真●IT契約の動向に詳しい上山浩弁護士
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2011年8月から日経コンピュータ誌上でおよそ半年にわたってIT法務をテーマに連載していただきました。当時に比べて、ユーザー企業のIT法務対策は向上していますか。

 残念ながらむしろ状況は悪化しているのでは。スルガ銀-IBM裁判の事例を見て、ITベンダー各社は訴訟リスクを抑制する取り組みを強化しているのに、ユーザー側はよく検討もせずに契約を交わしてしまうケースが相変わらず多いのです。

 交渉スキルをどう高めるかという課題もあると思います。ベンダーが出してきた契約書に対して、まったく別のひな形の契約書を持ち出して「これでやってください」と言ったのでは、かみ合わず交渉になりません。具体的に「ここをこうしてバランスを取りたい」という交渉をする必要があります。しかしユーザー企業が弁護士に相談してくるのは、相当に問題が起こってこじれてからですね。

内容をよく検討せずにスピード優先で交わしてしまうユーザーが多いのでしょうか。

 その通りです。これに対して上位10社くらいの大手ベンダーはいずれも、自社標準の契約書や契約リスクのマネジメント体制を確立しています。実際にユーザー企業と交渉するのは法務担当者でなく現場のプロジェクトマネジャーだとしても「こういう要望をされたときは法務部門に報告する」というような基準を定めています。