専門組織「アクセンチュア アナリティクス」として事業展開するデータ分析サービスを通じて数多くの事例を手掛けているアクセンチュア。データ分析プロジェクトの成功の秘訣を、アクセンチュア アナリティクス 日本統括の工藤卓哉氏と、多くのアナリティクスソリューションのシステム開発を率いる保科学世氏に聞いた。

(聞き手は田島 篤=出版局)


工藤 卓哉氏(左)と保科 学世氏(右)

データ分析プロジェクトの成否を分けるカギはなにか。

工藤氏:端的に言えば、「目的意識が明確か否か」だ。書籍『データサイエンス超入門』でも強調しているように、ビジネス領域におけるデータ分析は、企業戦略・戦術や業務プロセスでの意思決定を支援するためのものである。「データありき」ではなく「ビジネスありき」でデータ分析に取り組むために重要なのは、ビジネス活動上の目的と課題をしっかりと見据えることだ。

 私はこれを「発射台と的」によく例える(関連記事)。「発射台を間違え、着地点となるターゲットが定まっていない状態で弾を打っても、的には絶対当たらない。的を射るには、発射台(課題)と着地点(目的)の双方をきちんと設定(認識)しておくことが不可欠だ」といった具合だ。

 ただし、ここで勘違いしてほしくないのは、目的がないとデータ分析できないとは言っていないことだ。目的の重要性を指摘すると次のように言われることがある。「例えばデータマイニングは、大量のデータを分析対象にすることで意味のある気づきが得られる。目的がなくても(データ分析が)できるじゃないか」というように。このこと自体は否定しないが、データ分析をビジネスでの意思決定に活かすという観点からは、本質を捉えていない。

具体的に教えてほしい。

工藤氏:分かりやすい例を挙げると、マーケットバスケット分析の有名な例に「おむつとビール」がある。データ分析をして、おむつとビールが一緒に売れるという統計的に有意な結果が得られたとする。だからといって、おむつとビールを一緒に置いておけば売れるかというとそうではない。売れた背景をきちんと調べると、地域性のある店舗別にこの傾向が変わることが分かるため、対象店舗に対しても、その仮説が正しいかをきちんと検証する必要がある。

 ここでは、データ分析を実施した店舗でおむつとビールが一緒に売れていたのは、駐車場のある郊外型の店舗で、まとめ買いをしたときに重いビールやかさばるおむつは、週末に車で来たお父さんがまとめて買って帰るという、データ自体からは得られない「背景」があるからである。この背景は最終消費者にとっての「状況(週末にしか来られない)」あるいは「困りごと(かさばる物は車でないと運べない)」といえるだろう。

 こうした背景をきちんと認識したうえで、店舗経営上の目的や課題と合致するか否かを見極めないといけない。マンハッタンの店舗と、ニュージャージー郊外の店舗では、この傾向はまったく違うものになることは明らかだ。結局は、ビジネス上の目的意識や課題認識がないと、データ分析の結果を活かせないことになる。