「安心・安全な社会を実現するセーフティー事業をアジアで売り込んでいく」。NECの松木俊哉執行役員は、こう意気込む。シンガポール拠点の責任者としてアジアパシフィック地域を管轄する松木執行役員に、2015年度までの中期経営計画で「アジアへの注力」を打ち出したNECのアジア戦略と、ビジネス拡大の可能性について聞いた。

(聞き手は大和田 尚孝=日経コンピュータ

NECのグローバル戦略と、シンガポール拠点の位置付けは。

NECの松木俊哉執行役員
NECの松木俊哉執行役員
[画像のクリックで拡大表示]

 今年度から2015年度まで3カ年の中期経営計画で、2015年度の海外売り上げ目標を7500億円としている。海外で特に重視しているのが、シンガポール拠点の管轄エリアであるアジアパシフィック(AP)地域だ。

 シンガポール拠点はAP地域本社の位置付けであり、ASEAN10カ国に加え、インド、スリランカ、バングラデシュなどをカバーする。オーストラリアやニュージーランド、オセアニア諸国も管轄している。

 AP地域の売り上げは2012年度で1000億円強だったが、2015年度には2000億円超えを目指している。

AP地域では、どんなソリューションに力を入れるのか。

 「現地主導型ビジネス」を推進していく。日本で開発・構築したソリューションを売る「輸出型」ではなく、現地のニーズに合わせて、現地でソリューションを構築・提供する取り組みだ。

 既にいくつかの実績がある。代表例が、生体認証の技術を組み込んだセーフティー事業だ。シンガポールのチャンギ空港には、パスポートと指紋による個人認証の仕組みを既に提供している。この技術を使って、政府機関はもちろん、オフィス向けの施設監視や入退室管理などのソリューションを企業に提供することができる。「国民ID」といった社会インフラと連携させることも可能だ。

 「顔認識技術」を使い、飛行機に搭乗する乗客の動画から不審者を分析する仕組み、鉄道の車両や駅にCCDカメラを設置して防犯などに役立てる仕組みについても、シンガポールなどで実証実験や試行導入を始めている。シンガポールで実績を作るのは、AP地域の他国に対する格好のPRになり、大きなアドバンテージが得られる。

 AP地域では、社会が発展するにつれて、こうしたセーフティー関連ソリューションのニーズが増えていくだろう。そこに、生体認証など当社の得意分野が生かせるとみている。

 現地主導型ビジネスを推進するために、組織も整備している。この4月にシンガポール拠点内に新設した「グローバルセーフティ事業部」がそれだ。同事業部が、セーフティー事業の企画や実現を担う。

 売り上げ責任などを追う「事業部」を海外に置くのは、NECにとっては初めての挑戦だ。同事業部の部長には、シンガポール人をアサインしている。

セーフティー事業のほかには、どんな分野が有力か。

 ICTによる社会インフラの高度化だ。センサーや通信、放送、衛星などを活用した物流管理、モバイルネットワークの整備などを手掛けていく。インド政府が進める国民IDの導入プロジェクトにも携わっている。

 流通・小売業に対するPOSレジや店舗システムなどのソリューションも強化する。5月には、マレーシアのクアラルンプールに専門組織「リージョナル リテール ビジネス サポート センター」(RBSC)を設けている。

企業向けのITソリューション分野はどうか。

 もちろん提供していく。だが、どちらかというと、セーフティー事業のように、自社の強みを生かせる分野に特化していくつもりだ。海外ビジネスでは、得意分野で勝負することが特に重要だと考えている。

■変更履歴
第3段落でAP地域の売り上げについて、当初「2013年度には1000億円超えを目指している」とありましたが、NECからの申し入れに基づき「2012年度で1000億円強だったが、2015年度には2000億円超えを目指している」と変更しました。本文は修正済みです。 [2013/09/19 14:05]