最近、TwitterやFacebookなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を中心とした炎上トラブルが相次いでいる。飲食店やコンビニエンスストアの店員が冷凍ショーケースに寝そべったり商品となる食品を使って遊んだりする様子を撮影した写真をSNSに投稿し、非難のコメントが殺到。店員の個人情報が公になったり、店員が解雇されたりといった騒動が巻き起こった。続発するこうしたトラブルを企業も問題視し、炎上を企業リスクとしてとらえる動きも出てきている。SNSの炎上トラブルに詳しい、社会保険労務士の専田晋一氏に企業に必要な対策を聞いた。


この夏、飲食店やコンビニを中心に炎上騒動が多く見られた。

 炎上事件に関しては以前からウォッチし続けているが、最近は数が多くて追いきれていない。以前の炎上は、著名人のプライベート情報の漏洩やソーシャルハラスメントをきっかけに発生していたが、ここ数カ月の間に頻発した炎上事件の多くは、アルバイト店員による非常識な行動と、それをSNSに公開したことが発端となっている。

 こうした事態を受けて、企業も炎上を防ぐ手段を講じようと動き始めている。私のところにも、多くの企業から相談が寄せられている。

炎上の発端になった行為に対しては、従業員を解雇をした上で損害賠償を請求するといった非常に厳しい対応を取る企業も少なくない。

せんだ社会保険労務士事務所代表 特定社会保険労務士 専田 晋一 氏
せんだ社会保険労務士事務所代表 特定社会保険労務士 専田 晋一 氏
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 有名企業の場合、1日に数百件に上る抗議・問い合わせの電話がかかってくることもあるという。ブランドイメージの低下といった悪影響や厳罰を求める世論の後押しもあり、問題が長引くほど企業が受けるダメージも大きくなる。重い処分を課す姿勢を見せて、騒動の鎮静化を図っているのではないか。

 ただ、個人的にはこうした厳罰化の風潮には疑問を覚える。そもそもアルバイトやパートタイマーに対する解雇処分は、抑止力としてはさほど効果がない。短期雇用が中心だからだ。このため、懲罰的に損害賠償を請求するという事態に発展するケースもあるが、店舗閉鎖の損害賠償まで請求するのは「やり過ぎ」という声もある。訴えられた側も争うことになる。訴訟が長引くと、いつまでも問題を引きずることになりかねない。

 問題を起こしている若年層のSNSについての理解が不足している面もある。仲間内のツールという意識しかなく、情報が世界に向けて公開されているという事実を認識していない。事後に強硬な手段に出るよりも、まずは事前の対策が必要だと感じる。

具体的な対策とは。

 1つは、正社員に対してだけでなく、アルバイトなどを含めてSNSの使い方をきちんと教育することだ。SNSは便利なものだが、情報を発信することの危うさと、それをどうコントロールしていくべきなのかといった危機管理が不明瞭な場合がほとんど。従業員のメディアリテラシーを高める教育が必要だ。

 また、実際に炎上が起こってしまった場合の対処法を指導しておく必要もある。昨今の炎上事例では、自分を非難する意見に対して「あなたには関係ない」などと反論してしまったり、当該アカウントをいきなり削除してしまったりすることによって、かえって火に油を注ぐ結果になることがよくある。問題行為に対しては素直に謝罪し、唯一の窓口でもあるアカウントは削除しない方が良い。

 もう1つは、「SNSで大きな炎上トラブルを起こした場合には、解雇を含む厳しい処分を行う可能性がある」という旨の声明を社内に対してあらかじめ出しておくことだ。まずは社内通達という形でも良いので、従業員に周知することを勧めたい。アルバイトやパートタイマーに対する周知も必要だ。

 これは、炎上が原因で解雇された従業員が、企業に対して訴訟を起こす事態を想定したもの。実際に海外では、Facebookに書き込まれた上司の悪口に対して「いいね!」を押したことを理由に解雇された社員が企業に対して訴えを起こすなど、SNSが原因の訴訟が発生している。日本で同様の事例はまだ聞いたことがないが、近い将来、こうしたSNSを発端にしたトラブルによる訴訟が日本でも起こると考えるべきだろう。