「子供向け参加型創造・表現活動の全国普及・国際交流を推進する団体」として2002年11月に設立されたのがNPO法人CANVASである。小中学生向けのワークショップを中心とした「子供たちの活動の場」の提供とその活動の普及に取り組んでおり、今後はプログラミング教育にもより一層注力していく考えだ。理事長の石戸奈々子氏にCANVASの活動の狙いや、なぜ今プログラミング教育を重視するのかを聞いた。

(聞き手は田島 篤=出版局


NPO法人CANVAS 理事長の石戸奈々子氏
NPO法人CANVAS 理事長の石戸奈々子氏

NPO法人CANVASとして、「子供たちの活動の場」を提供する狙いを教えてください。

 子供たちの活動の場としては、もちろん、学校があります。学校の現場を今、振り返ってみると、昔はもっとキラキラ輝くワクワクする場所だったと思います。学校にしかないグランドピアノがあったり、顕微鏡があったり、家庭では体験できないことが、学校にはあった。それが、学校という場だったと思います。

 でも、いつの間にか学校は、家庭と比べるとすごく遅れた場所になってしまった。例えば、家にあるIT環境の方が(学校のものよりも)よほど進んでいる。子供たちはスマートフォンやタブレット端末など、自分のものだったり、親のものだったりしますが、使っています。いつの間にか、学校の方が時代遅れな場所になってしまっています。

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボに客員研究員として在席していたとき、メディアラボにいらっしゃった教育学者のシーモア・パパートさんはよく次のようにおっしゃっていました。「100年前の外科医を現代に連れてきて、手術室に入れてもまったく役に立たないだろう。けれども、100年前の教師を連れてきても、まったく同じように授業ができるだろう。そのぐらい教育というものはずっと変わってこなかったのだ」。まさにその通りなのではないかと思います。

 私は普段、「教育」という言葉を使わず、「学習」と言うようにしています。学びのあり方も、情報化社会の進展とともに、変わらなくてはいけない。これまでは、多くの知識を得るということに、評価の力点が置かれてきました。授業は、先生が持っている知識を一方向に多数の生徒に伝達するシステムでした。それは、均一化された知識を身に付けた人材を輩出するキャッチアップ型の工業化社会では極めて効果的な方法でした。この方法においては、日本は世界の中でも成功モデルとして君臨してきたと思います。

 けれども、情報化社会になった今、知識を覚えることにどれだけの価値があるのでしょうか。知識は、検索すればいくらでも出てきます。知識を覚えるより、大量にある情報の中から、取捨選択して再構築して、自分だけの新しい価値を作り上げていくことの方が、よほどこれからの時代に求められている力だと思います。

 実際、日本経済団体連合会(経団連)の新卒採用に関するアンケート調査の結果を見ても、新卒の採用にあたって重視した力は何かと聞くと、圧倒的な1位がコミュニケーション力です。これに主体性、協調性と続いて、学業成績とか出身校とかはあまり重視されていなかったりします。でも、コミュニケーション力や主体性が大事と思いながらも、これらの育成に学校で取り組んでいるかというと、そうではありません。

 多様性を尊重しつつ、個に応じた学習ができる。異なる背景や多様な力を持つ子供たちがコミュニケーションを通じて協働し、新たな価値を生み出すことができる。そんな学びの場を作ることを目指しています。

 まさに、「創造力やコミュニケーション力を育むことができる創造的な学びの場を作って行きたい」という思いで立ち上げたのが、CANVASという団体です。