日本マイクロソフト(MS) デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の伊藤かつら執行役は「JSLT」と呼ばれる樋口泰行社長を含む日本のトップ15人のうち、3人を占める女性幹部の1人。外資系企業の日本MSにとっても、女性や外国人を含めた人材の多様性(ダイバーシティ)の推進はこれまで以上に重要となっている。ダイバーシティはどのようなメリットをもたらし、推進するポイントはどこにあるのか。エンジニア支援の事業を率いる、伊藤執行役に聞いた。

(聞き手は市嶋 洋平=日経BP ビッグデータ・プロジェクト


日本MSは外資系企業の中でもダイバーシティが進んでいる。

日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の伊藤かつら執行役
日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の伊藤かつら執行役
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 女性と外国人の従業員比率を増やして活用するダイバーシティの推進は、どんな企業にとっても難しいものだ。外資系企業である当社にとってもそうだった。男性社会である日本では、あうんの呼吸で物事が進んでいく傾向がある。そこに女性や外国人が入ってくると、互いに恥ずかしがったり、遠慮したりする雰囲気になる。

 こうした状況から次第に打ち解けて、互いに意見を述べたり、思いをぶつけたりするようになる。そうなれば、しめたものだ。大きなエネルギーとなっていき、新たな発想を生み出し始める。

ダイバーシティを進めるメリットは。

 多様な価値観を理解したうえで、製品やサービスを提供できるようになる。

 例えば、当社は自社製タブレットの「Surface(サーフェス)」を2013年春に国内投入した。こうしたタブレットを子育て中の女性が活用して、家庭から企業内のシステムにアクセスするようなケースがあるだろう。PCやスマートフォンも含めたマルチデバイス、マルチプラットフォームの時代になっており、様々なシチュエーションで使われることを想定しなければならない。

 製品やサービスの設計や開発などでも男性と異なる、女性の視点は貴重だ。例えば、ユーザーインタフェースの設計では、女性の方がいいデザインだけでなく、使う人の立場で優れた操作性のものを提案してくることが多いと感じている。

企業内で昇進する女性を一定数を確保するには、乗り越えなければいけない点もある。

 そうだ。まず企業側としては、女性の新入社員や中途採用を増やすことで、男性のように普通に昇進していく環境を作っていく必要がある。

 もう一つの課題として、女性自身の意識があると感じている。能力があっても、マネージャーなどに昇進して組織を引っ張ろうと思う女性が少ない。男性は我先に出世したいと言ってくる。(男性は能力や適性から見て)勘違いしているのではと思うこともあるが、女性は出世したいと積極的に手を挙げない傾向がある。

 もちろん、女性は仕事と子育てを両立させるため、勤務時間に制限があったり、会社の宴会に出席できなかったりといった事情もある。ただ、20代や30代の仕事を通して、将来について明確なビジョンを持って、キャリアを切り開いていくべきだ。自分で選んだ好きな仕事でないと続けていくことができず、女性幹部の層も厚くならない。

日本企業もダイバーシティの推進に本腰を入れ始めた。

 革新的なサービスや製品を生み出すイノベーションを求められている日本企業にとって、ダイバーシティは極めて重要な課題ではないか。例えば、米国の企業はダイバーシティが会社の未来を左右すると考えて、積極的に推進している。IT業界の経営層もそうだが、起業家にも女性が多い。一方、日本は異業種の働く女性が集まって、互いに励まし合っているような状況だ。

 女性の数を増やしたり語学力を習得させることも重要だが、ダイバーシティを推進することの意義も十分に理解する必要がある。多様な考え方を受け入れることを通じて、世界で通用する思考のロジックも身に付けるべきだ。