「現在の教育システムは、時代の変化に対応していない」とよく言われる。米アドビ システムズでグローバル市場の教育担当のディレクターを務めるトレバー・ベイリー氏(写真1)も、2013年7月上旬に来日した際の講演で、この課題が世界的な問題であるとして、教育分野での創造力醸成の重要性を説いている。教育現場での想像力の醸成がなぜ重要なのか、他国での取り組みはどうなっているのか、ベイリー氏に聞いてみた。

(聞き手は菊池 隆裕=ITpro


7月9日に大阪、7月11日に東京で開催した「2013 Adobe Education Forum」における講演は、教育における創造性がテーマでした。なぜ教育現場における創造性を重視しているのでしょうか。

写真1●アドビ システムズ Worldwide Education担当シニアディレクター トレバー・ベイリー氏
写真1●アドビ システムズ Worldwide Education担当シニアディレクター トレバー・ベイリー氏
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 過去と同じプロセスでやっていたのでは、これまでと同じ問題に直面してしまいます。課題や困難を乗り越えるには、違う考え方や違うアプローチが必要になります。普段から、違う考えや違うアプローチを繰り返すことで、大きな問題にも立ち向かうことができます。今回、教育における創造性に注目したのは、教育がその基盤となるからです。

 特にビジネスにとって創造性は重要なのですが、多くの企業のCEO(最高経営責任者)は「現在の教育システムからは創造性が生まれにくい」と言っています。複数の製品をクラウド上で利用できるようになった「Adobe Creative Cloud」などアドビが提供するツールは、創造力を加速し、ほかの人との対話を通じて創造性を教室中に伝えるのに有効だと考えています。

東京での講演では、慶応義塾大学 経済学部の武山政直教授が実践している産学共同研究の発表をとても興味深く聞きました。研究室のゼミ生が数人のプロジェクトチームを編成し、「未来のパーソナルモビリティ」など企業の課題をサービスデザイン手法によって解決するというものです。ビデオなどを多用したプレゼンが印象的でした。

 その講演で私たちが見たものは、たくさんのデータの可視化です。ビデオやアニメーション、グラフィックスを駆使して、学生たちのアイデアを見えるようにして、ほかの人と共有できるようにしたのです。

 米国でもたくさんの事例がありますが、例えば地質学の教授は地層や岩石層を分かりやすく3次元画像化して説明しています。

ビデオやグラフィックスを駆使した発表は確かに魅力的なのですが、コンテンツの作成には労力やノウハウが必要となります。こうしたコンテンツの作成のために、アドビからの支援は受けられるのでしょうか。

 アドビとしては、ビデオやオンラインのチュートリアルを用意しています。専門家が、直接お伝えします。

 ほかには「Behance」と呼ぶオンラインコミュニティを用意しており、BehanceをAdobe Creative Cloudと連携させることで、コミュニティメンバーからヒントやアイデアを得たり、作品を展示したり、フィードバックをもらったりできるようになります。

 さらに「Adobe Exchange」を通じて、ほかの教育者との間で、アドビのツールで作成したコンテンツを共有できる仕組みを用意しました。これはグローバルな仕組みで、7万人以上の参加者がいます。登録されているコンテンツはすべて無料です。