英国の非営利組織We Are What We Doが運営しているネットサービス「Historypin」が、日本向けの本格ローカライズを開始した。Historypinは、地図を通じてその地域にまつわる写真、音声、動画コンテンツをアップロードして共有できるというものだ。米グーグルが開発に協力している。

 「魅力的なネットサービスは、地域社会にある様々な課題を解決できる」。We Are What We Doの代表であるニック・スタンホープ氏はこう語る。スタンホープ氏は英国の文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシルの招きで来日した。

 スタンホープ氏に、Historypinの概要と、これを通じて解決しようとしている社会課題、活動継続のためのビジネスモデルについて聞いた。

(聞き手は高下 義弘=ITpro


「Historypin」を日本でも本格展開する。

 この6月から、ブリティッシュ・カウンシルや富士通研究所などの協力を得て、本格的なローカライズを始めている(関連情報)。

Historypinの画面例
Historypinの画面例
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 Historypinはユーザーが持っている写真などのコンテンツを地図上に登録できる。登録する際には、その写真が撮られた時期や、何の出来事に関する写真なのかといった情報を併せて設定できる。

 例えばHistorypin上でロンドンのあたりを見ていただきたい(写真)。Google Map上に写真が“ピン留め”されている。ピン留めしてある箇所をクリックすると、ここに関連した写真が閲覧できるようになっている。

ネットサービスを通じて地域を活性化

このサービスを通じて実現したいことは何か。

英We Are What We Doのニック・スタンホープ 代表
英We Are What We Doのニック・スタンホープ 代表
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 Historypinでは、ある特定の地域における、昔の写真と今の写真を一つの画面から一度に閲覧できる。すると「ここではこの時にこんなことがあったのだ」と、地域に興味を持つようになる。

 地域に興味を持つようになると、その地域における自然環境や町並みの保全、政治など、地域の在り方に対して関心が高まる。次第に地域における人同士のつながりが強固になり、コミュニティの活性化が見込まれる。文化遺産など地域特有の社会資本が良好な形で保存されるようにもなるだろう。その流れの中で、若い世代と高齢者との交流も進む。こうした姿が、私たちがHistorypinで目指しているものだ。

 Historypinには現在、約5万のユーザー登録がある。写真や音声、動画などの素材は約25万点アップロードされている。利用地域は英国だけでなく、欧州、米国、オーストラリア、ニュージーランドなどに広がっている。

 博物館など1000以上の組織や団体が、Historypinの上で様々な地域コミュニティのプロジェクトを走らせている。その一例が、2011年に英国のレディングで実施されたプロジェクトだ。過去200年のいろいろなコンテンツを地元の美術館、小学校、ボランティアの手でピンニング(pinning:ピン留め)した。昔のオリンピックの写真や王室にまつわるエピソード、地元の音楽フェスティバルの写真などだ。約5000のコンテンツが集まった。

 こうしたコンテンツをHistorypin上にアーカイブし閲覧できるようにしたことで、地元の人々からは「改めて自分が住んでいる土地に対する興味がわいてきた」という意見がたくさん寄せられた。このプロジェクトは英国の調査機関であるThe Local Government Information Unit(LGiU)が第三者的な立場で評価した。LGiUは「このプロジェクトは世代間の格差改善、地域住民の結束、社会参加の促進で効果があった」としている。

 Historypin上に集められたコンテンツは多くの人にシェアできる。地域のコミュニティ活動のほか、学生の地域学習プログラムや研究機関の学術調査にも使える。全ては把握できていないのだが、各地でHistorypinのコンテンツを使った様々なプロジェクトがスタートしている。