ERPベンダーとして40年以上展開してきた独SAPが、クラウド事業に大きくフォーカスしている。戦略の中核は、2012年2月に買収したSuccessFactorsだ。タレントマネジメントや人事(HR)関連アプリケーションのSaaSベンダーで、創業者兼CEO(最高経営責任者)のLars Dalgaard氏はSAPエグゼクティブボードのメンバーに着任し、SAP全体のクラウド事業を率いている。2013年5月に米国で開催された「SAPPHIRE Now Orlando 2013」で、SuccessFactorsのグローバルセールス&戦略バイスプレジデント Employee Central担当のMartin Pitkow氏、SAPジャパンでクラウドファースト事業本部長兼Co-Innovation Lab担当バイスプレジデントの馬場渉氏に話を聞いた。

(末岡 洋子=ライター兼ジャーナリスト)


 「SAPはクラウドのリーダーだ」--、SAPPHIRE Now Orlando 2013において、共同CEOのJim Hagemann Snabe氏はこう宣言した。SAPのクラウドサービスのユーザー数は2900万人、ITベンダーとしては最大規模であるというのがその根拠だ。だが、SAPには「OnDemand」や「Business ByDesign」などのブランドを通じてクラウド拡大を試みてきたものの、スムーズには離陸できなかったという経緯がある。そこで、SAPはSuccessFactorsを34億ドルで買収し、外部からクラウドDNAを取り込むことにした。現在、SuccessFactorsは独立したブランドとして展開されている。一方、馬場氏が統括するクラウドファースト事業部は、日本でもクラウドに本腰を入れるために今年新設した部門である。

SAPによるSuccessFactorsの買収から1年半が経過した。SAP、そしてSuccessFactorsの双方にとって何が変わったのか?

独SAP傘下 米SuccessFactorsグローバルセールス&戦略バイスプレジデントEmployee Central担当、Martin Pitkow氏
独SAP傘下 米SuccessFactorsグローバルセールス&戦略バイスプレジデントEmployee Central担当、Martin Pitkow氏

Pitkow氏:買収後、SuccessFactorsはSAPのクラウド部門の一部となった。その後、SAPが買収したAribaなどが加わり、同部門のスタッフ数は6000人ぐらいになっている。

 SuccessFactorsから見た最大の変化は、SAPを後ろ盾に持つことで開発などの作業が加速したこと。財務的なリソースだけではなく、技術リソースから見ても環境は大きく改善した。単独では達成できなかったことだ。SAPのビジネスの考え方は「顧客の成功に貢献する」であり、これには深く共感している。

 逆に我々の(SAPへの)貢献としては、クラウド事業運営のノウハウ持ち込みがある。SuccessFactorsは2001年の創業以来、クラウド分野で11年の経験がある。買収時には3500社の顧客企業を抱え、エンドユーザーは1800万人に達していた。われわれはクラウドのスピードで技術革新を進めてきた。アプリケーションの配信方法など、オンプレミスとは異なる体験と知識がある。これらはSAPのクラウド事業にとって大きな支援となり、クラウド事業の成長を加速できるだろう。

馬場氏:SuccessFactorsは、買収後も完全に独立した運営組織およびブランドを維持する。社内ではこれを“リバースインテグレーション”と称しており、SuccessFactorsが中心でSAPのHRはその次、と位置づけている。SuccessFactorsは純粋なクラウドDNAを持っており、HRやタレントマネジメントを知っているからだ。SAPは買収というよりも、SuccessFactorsの成功のために投資している。