ERP(統合業務システム)大手の独SAPが、“BtoBtoCカンパニー”を目指すという戦略を打ち出している。インメモリーデータベースの「HANA」を中心に、クラウドやモバイル分野にも事業を拡大するSAPは、どんな企業に生まれ変わろうとしているのか。SAPの共同CEO(最高経営責任者)、Bill McDermott氏が2013年5月15日、米フロリダ州オーランドで開催した年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2013」で記者団の質問に応じた。

(聞き手は、末岡洋子=ライター兼ジャーナリスト)


独SAPの共同CEO、Bill McDemott氏
独SAPの共同CEO、Bill McDemott氏

 SAPPHIRE NOW 2013でSAPは、スポーツ&エンターテインメント業種向けに製品やソリューションを提供していくことを発表した。同社にとって25番目の業種となる。McDermott氏は、BtoBから消費者向けビジネスを支援するBtoBtoCへの事業拡大について、「技術が世界をよりよく、人々の生活を改善すると信じている」と、背景にある思想を説明する。

 McDermott氏はその具体例として、ヘルスケア業界が膨大なデータを瞬時に利用したり、患者のモバイル端末を利用してモニタリングしたりすることで、これまでになかったパーソナライズされた医療が実現されると語る。スポーツとエンターテインメントに限らず、あらゆる業種向けソリューションで、視点をコンシューマー中心に変えていくというのがSAPのメッセージだ。技術としては、パワフルなHANAだけでなく、モバイル、クラウドなどの技術も活用することになる。

 そのHANAは、SAPPHIRE直前に発表された「SAP HANA Enterprise Cloud」で大きな進化を遂げた。SAP Enterprise Cloudはプライベートクラウドとマネージドサービスを組み合わせたSAPのクラウドサービスで、SAPのデータセンターにあるHANAベースのインフラ上で業務ソフトウェアスイートの「SAP Business Suite」やBIの「SAP NetWeaver Business Warehouse」をはじめとする、HANAに対応するソフトウェアを動かすことができる。

 2010年の発表から3年が経ち、HANAはインメモリー技術を利用した高速な情報分析ツールからプラットフォーム、クラウドへと進化を遂げた。「HANA Enterprise Cloudはブレークスルーだ。顧客はオンプレミスで実装することなく、クラウドで実装し、すぐに動かすことができる」(McDermott氏)。

 なお、HANA Enterprise Cloudを利用するには“Bring Your Own License”として、HANAのライセンスが必要となる(Business Suiteを動かす場合はBusiness Suiteのライセンスも必要)。これについて、SAPの共同CEOであるJim Hagemann Snabe氏はSAPPHIRE初日の記者会見で、「多くの企業はコア機能を管理したいと思っている。(Bring Your Own Licenseモデルにより)コア機能を管理できる」と述べ、クラウドであっても自社のペースに合わせてアップグレードすることができるとメリットを説明している。