アムドックス日本、韓国担当カスタマービジネスエグゼクティブのガイ・モードック リージョナルヴァイスプレジデント
アムドックス日本、韓国担当カスタマービジネスエグゼクティブのガイ・モードック リージョナルヴァイスプレジデント
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 アムドックスは世界最大手のBSS(ビジネス支援システム)/OSS(オペレーション支援システム)ベンダーである。BSS/OSSは通信事業者向けのアプリケーションで、顧客管理やネットワーク管理といったバックエンドの業務を支える。アムドックスはかつて日本市場でビジネスを展開していたが2008年に撤退。その後、2011年に日本市場に再参入したという経緯がある。なぜ再参入したのか。日本の通信事業者にどのようなソリューションを提供するつもりなのか。同社の日本、韓国担当カスタマービジネスエグゼクティブであるガイ・モードック リージョナルヴァイスプレジデントに話を聞いた。

(聞き手は白井 良=日経コミュニケーション



日本市場に再参入した狙いは何か。

 当社は北米と欧州を中心にビジネスを展開していて、それ以外の地域はビジネス機会をうかがいながら進出していく方針だった。2008年に撤退となったのは、予定されていた進出ではなかったからだ。当時買収した企業が日本でビジネスをしていて、それを継続運営したが、ビジネス環境が厳しかったため日本法人をいったん閉じた。

 その後、2008年にアムドックス全体でアジア太平洋地域(APAC)での投資方針を決め、APACではまずオーストラリアと東南アジアに参入した。東南アジアはインドネシア、マレーシア、フィリピンといった国が含まれる。こうした地域で売り上げが想定よりも早く成長して、従業員数も1000人を超えた。次の戦略を考えなければならなくなり、2011年に全社的な方針で日本への投資を決めた。

 日本はテクノロジーとイノベーションのリーダーであり続けでおり、国内に三つの大きな通信事業者がある。日本は大きく難しい市場だが、現在は通信事業者が市場の変化に直面しており、これがアムドックスにとってチャンスになると考えている。

市場の変化とは何か。

 変化の1つはコストへのプレッシャーが強くなっていることだ。通信事業者は過去であれば、サービス品質に焦点を当ててビジネスをしていれば良かったが、今はそういう状況ではない。多くの事業者はBSS/OSSをスクラッチで開発したり、パッケージソフトでもフルカスタマイズしているが、コストへのプレッシャーが強い状況下では、これらの維持やメンテナンスが大変になるだろう。新技術を反映したりする柔軟性も得にくい。BSS/OSSをフルラインアップで持つ我々の製品なら、フルカスタマイズせずに柔軟に利用できると考えている。

 2つめの変化は、通信事業者がよりエンドユーザーに近づいて行かなければならなくなったことだ。エンドユーザーは今まで以上に簡単に事業者を乗り換えるようになっている。事業者はエンドユーザーと特別な結びつきを持ったり、満足度を高めたりというように、顧客ロイヤルティを高めなくてはならない。我々のソリューションではCRMとビリング、その他のシステムを連携させて、顧客満足度の高い対応ができるし、問題発生をアップセル(上位サービスの提案)のチャンスに変えることもできる。

 3つめは通信キャパシティの需要が高まっていることだ。スマートフォンの普及が背景にある。キャパシティが十分でないと、メールがきちんと送れないなどカスタマーエクスペリエンスは著しく落ちる。ただ、事業者側はそのための投資が難しい状況に陥っている。投資しても恩恵を受けるのはグーグルやフェイスブックなどのOTT(Over the Top)プレーヤーで、通信事業者の収益アップにはつながらない。そこで、現有のリソースを最適化するなど投資を効率化する提案をしていきたい。

 4つめのトレンドは日本市場全体で、海外の技術を採用することへの抵抗感がなくなってきたことだ。iPhoneやAndroidなどの海外製端末が広く受け入れられたのもその一つだろう。LTE(Long Term Evolution)では海外と歩調を合わせる動きも強くなっている。我々のような米企業にとって、日本企業が柔軟に受け入れる体制ができてきたといえる。

BSSとOSSとはどういうものなのか説明してほしい。

 BSSは大きく「ビリング」と「CRM」から構成するアプリケーションだ。

 ビリングでは通信事業者が設定した各サービスの料率から、ユーザーごとの料金を計算する。サービスにはSMS、音声通話、コンテンツなど様々なものがあるので、非常に複雑な集計をして請求書を発行することになる。競争環境が激しくなるほど通信事業者にとって重要なシステムになると思う。例えば「何円使えば映画に招待」とかのキャンペーンを打てる。

 CRMはコールセンターやヘルプデスクで利用するという点は一般企業が使うものと同じだ。違うのは通信事業者向けに特化していることだ。セルフサービス用のWebサイト、コールセンター、店舗といった全タッチポイントでシームレスに連携できるシステムにしている。他システムと連携して、顧客の情報を元に予測分析できる点も特徴だ。利用状況に応じて新しいプランを提案したり、エンドユーザーが気付く前に端末の振る舞いから問題を修正したりできる。

 一方、OSSは通信事業者のオペレーションを支援するシステムで、構築した通信ネットワークについてアプリケーション領域で最適化する。在庫管理、キャパシティ管理、リソース管理などだ。

日本の通信事業者は自社でBSS/OSSを開発してきた経緯がある。どのようにビジネスを展開するのか。

 そこが最も重要で、日本市場の独特な点でもある。日本のシステムインテグレーターやコンピュータメーカーと協力して展開していこうと考えている。当社は海外では製品、サービス、デリバリー、マネジメント、運用とエンド・ツー・エンドのソリューションを提供している。日本ではパートナー企業にキーとなる要素を提供して、共同ソリューションを展開していく。パートナーとの組み方は顧客やプロジェクトごとに異なるだろう。

 過去にJ:COMにBSSを納入したときにはSCSKと協業した。同様のやり方で日本市場全体でビジネスを展開していきたい。当社はサービスも提供できる企業ではあるが、日本ではシステムインテグレーターと競合したいとは考えていない。

スマートフォンの普及とともに、ユーザーは端末メーカーに価値を見いだすようになっていると感じる。通信事業者が顧客ロイヤルティを獲得すること自体が可能なことなのだろうか。

 確かに大きなトレンドしては、通信事業者に対する顧客ロイヤルティー自体が落ちているのは否めない。「ダムパイプ」(土管)化していくと、通信事業者がパイプを太くする投資をしても、それが顧客につなぎとめにはならないかもしれない。ただ、ダムパイプ化ではない道もあると思う。BSS/OSSを活用して付加価値サービスを生み出すのも一つの方法だ。これにより、顧客にパーソナライズしたサービス提供が可能になる。