日本企業が米国で民事訴訟を起こされた場合、ディスカバリー法と呼ぶ米国の法律に従って、証拠の開示が義務付けられる。2006年にe-ディスカバリー法が施行されてからは、PCやサーバー上のデータも提出対象に含まれるようになった。e-ディスカバリー法によって見えてきた課題と対策について、世界最大級の法律事務所、ジョーンズ・デイで、国際的訴訟プラクティスグループを統括しているトーマス・F・カレン Jr.氏に聞いた。

(聞き手は西村 崇=日経情報ストラテジー

紙の資料に加えて電子データも証拠として開示する法律が施行されて以降、どのような課題が見えてきましたか。

ジョーンズ・デイ法律事務所のトーマス・F・カレン Jr.氏
ジョーンズ・デイ法律事務所のトーマス・F・カレン Jr.氏
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 訴訟相手から開示を求められた企業では、データを探す負担が増しています。しかも、求められるデータの規模も大きなものになりがちですので、開示する情報をまとめるのも大きな負担になっています。

 ディスカバリー法では、相手に資料の提出を求めて内容を確認する権利が認められています。相手の求めを受けて情報を提供することになった企業は「どういった情報を管理しているのか」「情報にどうアクセスするのか」「どうやって集めるのか」「どれくらいさかのぼってデータを集めるのか」といったことを検討して、相手と交渉します。

 この交渉がうまくいけば、合意した内容で実際の作業を進めるのですが、合意に達しない場合、情報を提供する側の企業では再検討する必要があります。ときには裁判所からもっと広範に情報を探したり、より多くの時間をかけたりして提出するよう命令が出ることがあります。また、情報の保護命令が出された場合、情報提供側の企業はそれに従わなくてはなりません。

 情報を集めて提出しても、それで終わりではありません。開示された情報のどれを証拠にするのか、開示された情報はそもそも正しいものなのかどうかといった合意や認証の手続きに移ります。国際的な紛争になれば開示した情報の翻訳作業も必要になります。

証拠開示は、多くのステップからなる大変な手続きなのですね。

 ここまで説明する私も大変でした(笑)。実際には、企業が民事訴訟にかかわることは、5年に1回あるかないかの珍しいことでしょう。

 米国には、毎日のように証拠開示を専門に行うコンサルタントや業者がいます。これまで説明した交渉や合意、手続きは、実際にはそういったコンサルタントや業者、弁護士が加わって進めていくことになります。