ERP(統合基幹業務システム)パッケージ最大手の独SAPが急速にクラウドやモバイル、そしてデータベース(DB)事業を強化している。クラウドでは購買管理支援のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を提供する米アリバを買収。DB事業では自社開発のインメモリーDB「HANA」の適用領域を急速に拡大し、2013年1月にはHANAを利用できる主力製品「SAP Business Suite」を発表した。「企業向けソフトウエア市場においてHANAは輝かしい発明だ」と強調する独SAPの共同CEO(最高経営責任者)であるビル・マクダーモット氏に同社の戦略を聞いた。

(聞き手は、島田 優子=日経コンピュータ、田中 淳=同)

2012年度(2012年1~12月)の業績をどう見ているか。

独SAP 共同CEO(最高経営責任者)のビル・マクダーモット氏
独SAP 共同CEO(最高経営責任者)のビル・マクダーモット氏

 SAP全体では、2012年度の業績は売上高が前年同期比14%増の163億ユーロ(約1兆6900億円)と好調だった。我々はビジネスソフトウエアのマーケットリーダーとして、素晴らしいポジションにいる。

 日本法人であるSAPジャパンも、売上高は同21%増の7億8900万ユーロ(約818億1900万円)と好調さが目立った。日本は8四半期連続で二ケタの売り上げ増を達成した。

 日本の業績が良かったのは、日本企業がイノベーティブである表れだと考えている。特に業績に貢献したのが、インメモリーDBのHANAだ。モバイルやクラウドについても、パートナーを含めたエコシステムや顧客の取り組みが進んだ。HANA、モバイル、クラウドの組み合わせにより、素晴らしい業績を達成できた。

使われていない99%のデータに光を当てる

2013年1月10日に、HANAで動く業務アプリケーション群「SAP Business Suite powered by SAP HANA(Suite on HANA)」を発表した。SAP製品の利用企業にとって、Suite on HANAはどのようなメリットをもたらすのか。

 驚くべきことに、世界中の99%のビッグデータは活用されていないという調査結果がある。構造化データも非構造化データも扱えるHANAを利用すれば、この使われていない99%のデータに光を当てられる。

 加えて、HANAで企業内のプラットフォームを標準化すれば、ビジネスモデルの再考やサプライチェーンの自動化のような、企業が抱える問題を解決できるだろう

 HANAの利用企業は、金融、小売、ユーティリティー、消費者向け製品を扱う製造業など幅広い業種にまたがる。消費者向けサービスを提供する企業がHANAを利用すれば、消費者に関するインサイト(洞察)をリアルタイムで把握できる。リアルタイムにデータを分析しながら、最適な顧客向けのサービスを決定できるわけだ。

ERP(統合基幹業務システム)パッケージをはじめとするBusiness Suiteの利用者は、将来的にHANAを利用することになるのか。

 SAP製品では、利用するデータベースを自由に選べる。この方針はHANAが出ても変わらない。HANAを採用するかどうかは顧客次第だ。顧客が最適な選択をできるように、我々はすべてのデータベースをサポートしていく。

 ただ、Suite on HANAにより、既存のSAP製品の利用者はシステムを再構築せずに、HANAを使ったプラットフォームを使えるようになる。顧客はシステムを再構築しなくても、イノベーションを得られるということだ。

 アプリケーションの利用形態も、オンプレミスかクラウドか、ハイブリッドかを選択できる。すべてのSAPのアプリケーションは、クラウドでもモバイルでも利用できるようになる。

 既存の顧客の多くは長年、ERPやBusiness Suiteに投資を続けている。顧客に対しては、こうした既存の資産を生かすための選択肢を提供し続ける。