総務省の委託研究「広域災害対応型クラウド基盤構築に向けた研究開発」の成果を発表するカンファレンス「クラウドネットワークシンポジウム2013」が、2013年2月20日に東京・秋葉原で開催される。ITproは、委託先ベンダーの1社でネットワーク基盤構築に関わったNECに、委託研究の概要と成果を聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro


総務省委託研究の成果がまとまったと聞いている。そもそも、この研究開発は、どのようなものなのか。

NEC、クラウドシステム研究所、所長代理、岩田淳氏
NEC クラウドシステム研究所 所長代理 岩田淳氏

 名称は「広域災害対応型クラウド基盤構築に向けた研究開発」で、研究開発期間は2010年度から2012年度までの3カ年。テーマは三つあり、「高信頼クラウドサービス制御基盤技術」「環境対応型ネットワーク構成シグナリング技術」「省電力アクセスネットワーク制御技術」である。

 このうち、初年度(2010年度)から研究を始めたプロジェクトで、NECも関わっているのが、高信頼クラウドサービス制御基盤技術(以下、高信頼クラウド)だ。背景には、クラウドの信頼性と経済性を両立させたいという狙いがある。三つのテーマの中では予算が最も大きい。

 同研究の目的は、複数のプライベートクラウド(社内システムが稼働するデータセンター)をつないで一つの大きなプライベートクラウドとして使えるようにすること。我々(受託機関)は、この形態を「インタークラウド」と呼んでいる。インタークラウドが実現すれば、クラウド間でリソースを共有して融通し合えるようになる。

 インタークラウドを実現する技術要素を大きく三つの領域に分け、ITベンダー各社が分担した。具体的には、インタークラウド全体を管理する機能群はNTTグループが担当、クラウド間の接続を高信頼化するインフラ部分はNECやKDDIが担当、アプリケーションのレスポンス向上技術は日立製作所が担当した。

高信頼クラウドの研究成果はどのようなものか。すでに動いているのか。

 NECが関与したネットワーク基盤の研究では、ネットワークに障害が発生してから検知/復旧するまでの時間を、従来の分単位から100ミリ秒へと大幅に短縮した。ネットワークを使うアプリケーションがタイムアウトにならないので、データ転送がやり直しにならず、通信中のアプリケーションが止まらずに済む。

 これは、クラウド同士をつなぐ既存の仕組み(インターネットを使ったBGPルーティング)を変えることなく、BGPの経路切り替えを高速化した形である。現状のBGPルーターではBGPがタイムアウトになるまでの時間が長いため、経路の切り替えには分単位の時間がかかる。ここで、障害検知と経路切り替えに、NECが以前から取り組んでいるネットワーク技術であるOpenFlowを適用した。

 一方、NTTグループが関与したクラウド管理機能の研究では、クラウド同士をつなぐインタフェースを定めた上で、実際にクラウド同士をつなぎ、クラウドをまたがったDR(災害復旧)とスケールアウト(サーバー台数を増やして処理負荷を分散)を実証した。クラウド間のDRは、30分で完了した。スケールアウトは、10分で1000台の仮想サーバーを複数のクラウド上に配備できた。

 NTTグループは、今回の研究成果の一つであるインタークラウドのインタフェース仕様を、通信分野の国際標準を策定するITU-Tに提案済みである。規格の名称は「Y.ccic」(インタークラウド)で、2013年12月の勧告を目標としている。

 高信頼クラウドの研究では、実際に国内の4カ所にデータセンターを設置して実験した。仙台、川崎、福岡、沖縄である。2月20日のカンファレンス(クラウドネットワークシンポジウム2013)でも、会場の東京・秋葉原から仙台、川崎、福岡の3カ所につないで、実験のデモンストレーションを実演する。