クラウド、スマートフォンなどと並んでよく耳にするICT業界のキーワード「ビッグデータ」。そして、ビッグデータと密接に関わる分野として、急速に注目度が上がってきた「M2M」(Machine-to-Machine)。ビッグデータやM2Mに関連した数々のプロジェクトに携わる森川教授に、動向や適用領域について聞いた。

(聞き手は河井 保博=日経コミュニケーション編集長=取材時)

ビッグデータなどのキーワードを相変わらずよく耳にする。2012年はM2Mも今までより聞くようになった。

森川 博之氏
写真:新関 雅士

 活用法を考える人の裾野が広がってきた証拠だろう。これからのICT、さらには社会の発展につながる動きとして、ビッグデータへの期待が高まっている。この裾野の広がりに伴って、ビッグデータを実践するにはリアルな情報を集める必要があることに気づく人が増え、M2Mの重要性が再認識されるようになってきたのだと思う。

 官公庁にも動きが出てきた。例えば総務省は2012年12月に、「ICT生活資源対策会議」を立ち上げた。その名の通り、エネルギー消費量の増加や、水不足、廃棄物発生量の急増といった問題の解決策について議論するための場。当然、“ICT”にはM2Mなどの仕組みが含まれる。

ただ実際のところ、まだあまり大きな市場にはなっていないようだ。

 確かに、市場という意味ではまだまだ。それでも、長いスパンで見れば、必ず市場性はある。今は、リスクを取ってチャレンジすることが大切だ。当然、できるだけリスクを抑えなければならないから、当面の取り組みとしてはスモールスタートするしかない。ニッチなテーマでも構わない。この部分には絶対にあったほうがいいという適用シーンを見つけて、少しずつ展開していけばいい。

ビッグデータやM2Mへの取り組みを拡大していくために、さらなる技術的なブレークスルーはあるか。

 いや、技術面でのブレークスルーはないと思っている。各種のセンサーやそれを搭載したデバイス、高速通信、クラウドをはじめとする分散コンピューティングなど、必要な要素技術は既にそろっている。それらを組み合わせたり、修正を加えたりすれば、大抵のことは実現できるだろう。重要なのは、それをどう使いこなしていくかだ。

 これは何も、ビッグデータやM2Mに限ったことではない。ICTは、かなり成熟してきた。今までの新技術は主に、モノの生産量など、量的な面で革新を生み出すものが中心だった。しかし今の日本のような成熟した社会では、量的な革新による市場の拡大は限界だ。技術の進歩も緩やかになってきた。

 これからは、ICTに関する発想を変え、今ある技術の有効活用に注力していく必要がある。私はよく「ストーリーとしての研究開発」と言っているのだが、技術そのものを突き詰めるよりも、どんな領域に、どの技術を、どうやって生かしていくか、どうすれば生かせるかを考えていくことが技術者の役割だと思っている。その意味で、技術者は世の中のいろいろな産業分野に関わっていくべきだ。M2Mなどは、まさにそういう取り組みが欠かせない。

そのM2Mについて、適用領域として有望な例を教えてほしい。

 M2Mは幅広い領域に応用できるが、長期的に見て、土木や農業などは有望な分野だと思っている。例えば地すべりのセンシング。道路や崖、その周囲での、力のかかり方の変化などから、地すべりの発生を事前に予測する。

 こうした予測ができれば、大きな災害を防げるはずだ。同じ考え方は地すべりのセンシング以外にも適用できる。例えば最近起こったトンネル内での崩落事故。トンネル内の各部位をセンシングし、分析していれば、崩落を防ぐ措置を施すなり、通行止めにしておくなり、災害を防げたかもしれない。

 土木関連ではほかに、橋などのセンシングも考えられる。少し違う分野では、水道管などのインフラ設備の監視に使える。