12年にわたり米EMCを率いるジョセフ・トゥッチCEO。米国のIT企業の経営トップとしては異例の長期政権だ。その間、ヴイエムウェアの買収などにより、ストレージメーカーにすぎなかったEMCを総合クラウドインフラ企業に変貌させた。経営トップとして総仕上げの時期を迎えた今、目指すはデータセンター(DC)の大変革だ。その事業戦略を聞いた。

(聞き手は木村 岳史=日経コンピュータ

最近「ソフトウエア・デファインド・データセンター」という概念を提唱しています。

米国のマンハッタン・カレッジで学士号を、コロンビア大学でMBAを取得した後、RCAに入社、システム・プログラマになる。1986年にユニシスのU.S.インフォメーション・システムズ担当社長に就任。1990年にワングに入社。その後、ワング・グローバルの会長兼CEOを6年間務める。2000年にEMCに入社し、社長兼COOに就任。2001年1月より社長兼CEOを務め、2006年1月より現職。(写真:陶山 勉)

 IT業界の構造変化には二つの特徴があります。その波が破壊的な力を持っていること、同時に大きな機会をもたらすことです。そして今のクラウドの波は最も大きなものになるはずです。破壊力も最大であると思います。

 クラウドへの移行は標準化、仮想化、自動化のステップで進みます。標準化とはシングルアーキテクチャーで統一することであり、我々の場合、それはx86プラットフォームでした。次に、これまでアプリケーションが所有していたインフラが仮想化され、アプリケーションに対して提供される形になる。そして管理も含め様々な機能が自動化されるわけです。

 で、その次に来るのが「ソフトウエア・デファインド・データセンター」です。サーバーやストレージ、ネットワーク、セキュリティが仮想化され管理ツールも内蔵化される。それは複数のデータセンターをまたぐ仮想化された柔軟なデータセンターです。

IBMやオラクルとは違う

ネットワーク領域では「ソフトウエア・デファインド・ネットワーク(SDN)」が注目されていますが、同じアプローチですか。

 その通りです。データセンターの場合、ソフトウエアによって定義されたコンピューティング、ストレージ、ネットワークということになります。

ソフトウエア・デファインド・データセンターは、EMCの事業の方向性を示すものでもあるのですか。

 もちろんです。

IBMやオラクルによるクラウドやデータセンターへのアプローチとの違いは何ですか。

 他社は垂直統合のアプローチですが、我々は水平方向のアプローチです。その違いが今後どのような結果を生むか、非常に興味深く思っています。ただ、我々のアプローチならアマゾン・ウェブ・サービスなどとも連携できます。さらにハイパフォーマンスコンピューティングにも、多くのプロセッサのコアを割り当てることで対応できます。

(写真:陶山 勉)

具体的な取り組みはシスコなどとのVCE連合による「Vblock」、あるいは別枠組みの「VSPEX」がベースになるのですか。

 我々が最も好ましいと考えるのは、やはりVblockです。VSPEXはオプションとの位置付けです。

そのシスコとの協業の進捗はいかがですか。シスコも「データセンター3.0」というコンセプトを出していますが。

 シスコとの協業はまだ始まったばかりだと認識しています。進捗は非常に堅調で、膨大なチャンスがあると思っています。

 データセンター3.0は青写真段階の話でしょう。ソフトウエア・デファインド・データセンターは、我々が提供するソフトウエアであり、x86のハードウエアがあればすぐにロードできるものです。そしてVMwareがインストールされていれば、移行、拡張は非常に簡単にできるわけです。

日本ではVblockでなかなか成果が出てきません。

 Vblockは現在、米国では500社を超える顧客がおり、特に大手企業で積極的に採用されています。ゼロからスタートして3年で10億ドルの売り上げを達成しましたので、非常に大きな成功だと思います。確かに欧米に比べて、日本での顧客はまだ少ないと言えますが、それは逆に大きな潜在性、可能性があるということです。

トゥッチさんはEMCのビジネスモデルを大きく変えたわけですが、今のトレンドをどこまで見通してのことなのですか。

 何か新しい波が来ることは分かっていた、とは言えます。ただ、クラウドまで予想していたかと言えばと、それはノーです。