9000社以上がひしめき、その90%が従業員100人以下という警備業界は労働集約型産業の典型だ。その中にあって、大手の綜合警備保障はITを積極活用することで、警備の質の向上と新商品の開発を推進し、業界の価格競争から一線を画す。「ITこそが差異化要因」と断言する村井温会長兼CEOに新規事業も含めた経営戦略と、それを支えるIT戦略を聞いた。

(聞き手は木村 岳史=日経コンピュータ

最近、景気が失速気味ですが、御社や警備業界の状況はいかがですか。

1966年に東京大学法学部卒業後、警察庁入庁。93年8月に福岡県警察本部長、95年9月に中部管区警察局長。96年6月に預金保険機構の理事に就任。97年9月に綜合警備保障に入社。98年6月に代表取締役副社長、2001年6月に代表取締役社長に就任。12年4月より現職。1943年2月生まれの69歳。(写真:陶山 勉)

 東日本大震災のダメージから持ち直し、この秋はもっと良くなると考えていました。ほかの企業も同じ認識だったはずですが、今は「おや?」といった感じです。

 多くの企業が設備投資に慎重になっていますね。我々の業界は警備対象になる建物がどんどん建ってもらわないといけないわけですが、想定していたより状況は良くないです。ただ、言い訳はしないことにしています。事業環境に関係なく攻めろと言っています。

 こうした経済情勢ですから、事業を伸ばすためには営業強化もさることながら、顧客のニーズに合った新商品をいかにタイムリーに出していくかが重要になります。新規事業についても、24時間365日どこであっても対応できるという経営資源を生かし積極的に進出します。もちろん、M&A(合併・買収)やグローバル展開も大きな課題ですね。

機械警備はITの固まり

警備事業ではITの活用が進んでいる印象があります。

 実は、警備会社は日本中で9000社以上もあり、その90%が100人以下の企業です。このため価格競争に陥りやすいことが、この業界の問題点なのです。労働集約型のままでは価格競争に巻き込まれ、警備のレベルを落とさざるを得なくなる。警備会社としての存在意義が無くなってしまうわけです。少子高齢化で警備の担い手も少なくなりますから、価格勝負ではダメです。

 では、レベルの高い警備を提供し続けるためにどうするか。やはり差異化しかありません。そして差異化のための大きな要素がITなのです。我々は資本力もありますので、ITに積極投資することで彼らと差異化していこうというのが基本的な考え方です。

 差異化のポイントは四つです。一つめはやはり警備の質。正確かつ迅速に対応することが最も重要で、そのためにITをどう活用するのかということです。二つめは、いかに差異化できた新商品を出していけるかです。三つめは当然ですが、合理化や効率化を進めてコスト改革を実現することです。それに、警備は3K職場との印象を持たれている面がありますので、IT活用で警備員の負担を軽減する。これが四つめのポイントです。

(写真:陶山 勉)

警備の質の向上や新商品の開発にITが不可欠ということは、ビジネスそのものがIT化しているわけですね。

 例えば機械警備はITの固まりです。監視センサーからネットで送られてきた信号をソフトで解析して、異常があれば指令システムから警備員に急行するように指令を出す。警備員はGPS(全地球測位システム)付きの携帯端末を持っていますので、一番近い警備員に指令が行きます。どこから建物に入ればよいかといった情報も携帯端末で提供し、正確で迅速に対応できるようにしています。

 新商品ではやはり機械警備ですが、ホームセキュリティの新ブランド「HOME ALSOK」を最近立ち上げました。従来サービスと異なり、顧客自身がスマートフォンで警備装置を遠隔操作し、侵入者の有無を画像で確認できます。

 実は、警備員による常駐警備でもIT活用が進んでいます。例えばビル入退館管理の機械やシステムも含めて提供しています。大きなオフィスですと、人がいるか、どの照明がついているかなどを集中的に管理・監視する制御システムも提供しています。

 現金などを運ぶ警備輸送では、小売店に設置する入金機があります。顧客が売り上げを入金機に入れると、翌朝、我々が立て替えて顧客の銀行口座に振り込みます。現金は後で我々が回収し、顧客は現金を運ぶ必要がありません。こうした仕組みもITを活用しなければ実現できなかったことです。