15%近くの営業利益率を達成しつつ、11期連続で増収増益を続ける医療用検査機器のシスメックス。血球分析装置では世界シェアが4割に達する“知る人ぞ知る”優良企業は、今や売上高1347億円の大手に成長した。高収益と成長の秘密は、コマツの「KOMTRAX」とも並び称される、IT活用による儲ける仕組みにある。家次恒社長にITの戦略活用の要諦を聞いた。

(聞き手は木村 岳史=日経コンピュータ

海外の売上比率が7割とのことですが、いつからグローバル展開を志向したのですか。

1973年3月に京都大学経済学部卒業、同年4月に三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。86年9月に東亞医用電子(現シスメックス)に入社、取締役に就任。90年3月に常務取締役、96年4月に専務取締役(代表取締役)に就任。96年6月より現職。1949年9月生まれの63歳。(写真:松田 弘)

 海外戦略が具体的な形になったのは90年代からです。それまで海外は代理店を使っていましたが、1991年に英国企業が代理店をやめると言ってきたので、その企業の買収に踏み切りました。その後も、M&A(合併・買収)をいろいろと手がけました。

 グローバル展開での象徴的な出来事は、2003年に米国で直接販売するようになったことです。国土が広いので多くの人員が必要ですが、体制を整えて代理店販売から直販にスイッチしました。現在、170カ国以上に製品を輸出しています。消耗品の試薬は海外でも製造していますが、機器は全てメード・イン・ジャパンです。

単なる機器販売からサービスへ

直接販売や国内生産にこだわるのは、なぜですか。

 顧客と直接つながることはとても大切で、いろいろなニーズを把握できます。顧客にも安心してもらえる。仕組みを作るのは大変でしたが、今や大きな強みとなっています。今から作ろうとしても不可能でしょう。世界のボーダーレス化が始まった90年代に、本格的に海外展開に着手できたのは、非常に幸運でした。

 メード・イン・ジャパンはブランドです。我々の機器は精密機械で、特殊な部品も組み込んでいますから、日本の中小企業の技術力や協力がないと製造できません。今では中国企業もローエンド製品を造っていますが、ハイエンド機器は造れません。メード・イン・ジャパンは品質の証しなのです。

単なる機器販売ではなく、ITを活用したサービス提供が御社の強みと聞いています。

 血液中の赤血球などの数や種類、大きさを測定・分析し健康状態をチェックする「ヘマトロジー」分野が、我々の主なビジネス領域です。この分野では試薬よりも検査機器が重要でした。ですから当初、我々は機器販売で収益を上げてきました。

 ただ最近は、売り上げのうち機器が34.2%で、試薬が44.5%、サービスが9.5%を占めています。以前は、試薬はそれほど高価なものではなく、サービスではお金を取れませんでした。それが今では、試薬とサービスで収益を支えるような構造になっています。

 実は90年代から検査のオートメーション化を追求してきました。医療費抑制が先進国の課題になり、検査でも生産性向上が大きなテーマでした。エイズが深刻になったこともあり、危険な血液に触れないようにするニーズも高まりました。そこでオートメーション化を真っ先に推進し、今や我々の機器では、採血段階から人が血液に触れることはありません。

 そうした流れの中で、IT化の取り組みが出てきたのです。検査機器は、データが正確かどうかを常にチェックしながら動かす必要があります。調子が少しでも悪ければ即、誤診につながりますからね。そのため、ITを使って機器をチェックする仕組みを構築してきたわけです。