航空輸送を中心に事業を展開する国際物流大手の近鉄エクスプレスは、売り上げの6割、営業利益の7割を海外で稼ぐ。航空機や船舶を自社保有しない、いわゆる「フォワーダー(混載事業者)」として成長してきた同社だが、今後はアジアを足場とする“総合物流会社”を目指す。その目標に向けITをコアコンピタンスと位置づける石崎哲社長に事業戦略を聞いた。

(聞き手は木村 岳史=日経コンピュータ

御社はフォワーダーとのことですが、まず事業の概要から聞かせてください。

1973年3月に慶応義塾大学商学部を卒業、同年4月に近鉄航空貨物(現・近鉄エクスプレス)に入社。90年1月に複合輸送営業部産直課長、97年1月に新宿国際支店長、2001年4月に輸入営業部長。03年6月に取締役(ロジスティクス営業部長)、07年6月に専務取締役(ロジスティクス営業部長、米州本部分担)に就任。09年6月より現職。1950年4月生まれの62歳。(写真:陶山 勉)

 我々のビジネスは基本的にBtoBです。航空輸送や海上輸送、トラック輸送だけではなく、顧客の荷物を一時的に預かり、加工や品質検査も行っています。ただ航空機や船舶は保有していません。利用運送事業、いわゆるフォワーダーです。いろいろな航空会社や船会社の輸送チャネルを使って、顧客の荷物を運ぶというのが基本です。

 連結ベースで売り上げの60%、営業利益の70%が海外です。顧客は海外にシフトしていますから、ますます海外中心の収益構造になっていくでしょう。我々の海外展開は早く1969年に香港と米国に現地法人をつくりました。今では31カ国、203都市に333の拠点を持っています。実は、我々は当初から外資系企業にもアプローチしてきました。航空貨物から出発した会社ですので、米国のハイテク産業に顧客を多く抱え、それが日本の同業他社との際立った違いになっています。

中国プラスワンを強化へ

外資系を主な顧客として海外事業を伸ばしているのですか。

 いえ、顧客数では圧倒的に日本企業のほうが多いです。ただ取り扱い量では外資系の比率は高く、4割を占めています。日本企業も海外展開を進めていますから、日本から海外に出る荷物よりも、海外から海外へ動く荷物のほうが伸びています。いわゆる三国間輸送ですが、当社はそうした動きを確実にとらえるべく、プロジェクトチームをつくり営業活動を活発に展開しています。

 ただ、フォワーダーでは欧州企業が非常に強い。シェンカーやキューネ・アンド・ナーゲルなどは100年以上の歴史があります。我々は彼らを見習い、早く近づけるようになりたい。そこで、2013年3月期までの3年間の中期経営計画で「アジア(での事業)を強くする」ことを推進してきました。強くしたアジアから全世界に打って出ようという戦略です。

(写真:陶山 勉)

 今、業界全体でのアジア発着の貨物は日本を含めて60%ぐらいです。我々はアジア出身のフォワーダーとして、そのアジアを中心に事業拡大を図っているわけです。なかでも重視するのが、中国、香港、台湾といった中華圏です。進出が早かったので我々の強みとなっていますから、さらに強くする。もちろんASEAN(東南アジア諸国連合)やインドのような新興国での存在感ももっと高める必要があります。特にASEANで物流ネットワークや営業の拡大を推進している最中です。

最近の状況から見て、中国での事業に問題はありませんか。

 中国は大きな市場ですので、今後も拠点の拡充やサービスの強化を進めていきます。ただ中国プラスワンも強化します。中国一辺倒ではリスクが高いということで、顧客の間ではベトナム、カンボジア、ミャンマーといった“新たな新興国”に中国から生産を移管する動きも進んでいます。顧客がどこまで動くかは分かりませんが、生産拠点などの分散化の動きは加速すると思います。

 ですから、ASEANやインドで、人的な面や倉庫などハード面での投資をさらに進めていきます。例えばインドには21カ所の拠点を設置しています。ただ、インドで顧客が困っているのは劣悪な国内物流ですので、インドの物流会社ガティと合弁で国内配送や倉庫管理などを担う会社をつくり、今年6月から営業を始めました。