LTE(Long Term Evolution)サービスでは、国内の競合他社よりも1年以上先行してきたNTTドコモ。他社がiPhone 5を武器に猛追し、追いすがろうとする中で、ドコモは技術面での優位性をどうやって維持していくのか。“次”の技術であるLTE-Advancedの展開を中心に、尾上CTOに技術戦略を聞いた。

(聞き手は河井 保博=日経コミュニケーション編集長、取材日:2012年10月11日)

競合他社もいよいよLTEのサービスを始めた。これで技術、スペック面では優位性を訴えづらくなるのではないか。

尾上 誠蔵氏
写真:吉田 明弘

 確かに、各社で基本的な技術はそろう。技術的にも急ピッチでキャッチアップしてくるだろう。ただ、技術的な検討では我々が先行できると考えている。そして、常に技術的な裏付けを理解したうえでサービスを展開していく。それがNTTドコモの強みだと思っている。

 例えばLTEでは、1基地局のセルを6セクターに分割して運用している点や、アンテナと変復調機能などを独立させた「光張り出し基地局」を設けて既存の周波数を流用してLTEを展開している点が、我々のネットワークの特徴になっている。LTEサービスを提供している海外の事業者は3セクターが主流だが、通信容量不足が深刻になって、最近はセクター数を増やすことに興味を示すようになってきている。光張り出しで、1カ所からたくさん張り出して、6セクター以上にしようという動きも出てきている。その意味では、我々の取り組みが時代を先取りしていたといえる。

LTEの次、LTE-Advancedの展開については、どう考えているか。

 まだ具体的な計画にまで落とし込んでいるわけではないが、要素技術の展開について検討はしている。

 LTE-Advancedの要素技術としては、キャリアアグリゲーション(CA)、スモールセルなどとも言われるヘテロジニアス・ネットワーク(HetNet)は、将来的には効果が出てくるだろうと期待している。

 展開が早そうなのは、複数のキャリア(搬送波)を寄せ集めて、実効的な帯域幅を20MHzを超えるようにできるCA。2014年か2015年あたりには実装が出てくるのではないかと見ている。CAに関しては、米国などの事業者からのニーズが高い。一つの周波数帯で割り当てられている周波数幅が少なく、細切れになっているためだ。十分な帯域を確保するために、複数の異なる周波数帯を組み合わせて使いたがっている。早く欲しくてしかたないというスタンスだ。

 これに対して我々の場合は、今LTEに使っている2GHz帯だけで20MHz幅あるから、それほど切迫してはいない。もちろんCAが不要というわけではなく、20MHz幅以上の帯域を実現するために導入はしていく。ドコモとしては、2GHz帯と1.5GHz帯、あるいは2GHz帯と800MHz帯といった組み合わせを想定し、準備を進めている。  

LTE-Advancedには、あまり大きな期待をしてはいけないと主張されていたと思うが。

 以前からそう言ってきている。LTE-AdvancedはLTEの拡張技術で、基本的には延長線上にあるからだ。例えばCAにしても、キャリアを寄せ集めるだけで、そんなに“筋の良い”技術とは言えない。

 カバー範囲が狭いセルをたくさん設置して、マクロセルと併用するHetNet、あるいはスモールセルもそうだ。それ自体は特に今までより進んだアイデアというわけではなく、単体で技術革新につながるものではない。実際、ドコモはだいぶ前からスモールセルに関する研究に取り組み、サービスも展開してきている。例えば2003年にはスモールセルのような基地局を設けた。2006~2007年にはピコセル、フェムトセルも実用化している。

 ただ最近、CAとスモールセルについて少し考えを変えている。両方をうまく組み合わせて使うと、良い特性が得られ、新たなフィーチャーを生み出しそうだということが分かってきたからだ。