ソフトバンクモバイルはスマートフォンで公衆無線LANを快適に使えるようにするための取り組みを強化している。「EAP-SIM」による認証の高速化、加速度センサーを用いた接続制御などである(関連記事)。同社プラットフォーム技術課の土井正行課長に具体的な取り組みを聞いた。

(聞き手は、榊原 康=日経コミュニケーション

無線LANのインフラ拡充だけでなく、端末側でも工夫を進めている。

ソフトバンクモバイル プロダクト・サービス本部技術開発統括部移動機技術部プラットフォーム技術課の土井正行課長
ソフトバンクモバイル プロダクト・サービス本部技術開発統括部移動機技術部プラットフォーム技術課の土井正行課長

 現状の公衆無線LANでは、通信環境が悪いと、かえって遅くなるといった状況が起こり得る。快適に通信できない状態が続くと、ユーザーが無線LAN機能をオフにしてしまい、インフラ拡充の取り組みが無駄になってしまう。とにかく無線LANを使ってもらうための機能強化に力を入れている。

 イチ押しは「移動中Wi-Fi接続制御」(写真)。乗用車や電車で走行中に一瞬だけ無線LANをつかんで切れるといった挙動はユーザーのストレスにつながる。そこで加速度センサーや地磁気センサーを活用し、ユーザーが乗り物で移動中であると検知した場合は一瞬だけ無線LANをつかむようなことはしないようにした。

写真●[Wi-Fiスポット設定]の[詳細設定]で移動中Wi-Fi接続制御の機能をオン・オフできる。デフォルトでオンになっている。
写真●[Wi-Fiスポット設定]の[詳細設定]で移動中Wi-Fi接続制御の機能をオン・オフできる。デフォルトでオンになっている。
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具体的な仕組みは。

 この部分でいくつかの特許を出願しており、具体的な仕組みを公表できないが、漏れてきたような無線LANの電波はかなりの精度でカットできる。さすがに速度が一定で振動がない場合は厳しいが、乗用車や電車で移動していれば加速がかかり、揺れが生じる。特に電車の場合はモーターから出る電磁波により高い確率で判別できる。

 実装に当たっては、日本列島を縦断できるほどの距離を実際に走行して検証した。一般の乗用車だけでなくセンチュリーやレクサス、ハイブリッド車まで借りたほか、地下鉄やJR山手線、新幹線などで検証を繰り返した。例えばN700系の東海道新幹線の場合、時速300kmで走行している際は想定より大きく揺れるが、東京駅を発車してJR山手線と並走している際はほとんど揺れないといったことが分かるので、それに合わせてチューニングしていく。

新幹線の車内の公衆無線LANにはつながるのか。

 全く問題ない。一定間隔でAPを検知しており、移動中でも常に見える無線LANにはつながるようにしてある。乗用車や電車が信号や駅で停止した際もすぐにつながず、本当に動いていないことを確認してからつなぐ。

電車から降りてホームの無線LANを使いたい場合は。

 電車の揺れと徒歩の振動を総合的に判断しているので問題ない。電車と徒歩では揺れのリズムが違うので、ユーザーが歩いていることは明確に分かる。歩いていると判断すれば接続できるようにする。

新幹線の通過待ちで停車中に車内のトイレに歩いて行った場合はどうなる。

 N700系の車両では問題ないことを確認済みだ。車両の構成やトイレの配置などが大幅に変わらない限り、対応できるだろう。今回は、考えられるケースをすべて調べ、かなりの量のサンプルを取得してチューニングした。センサー活用による消費電力への影響の調整には苦労したが、それだけに完成度に自信がある。

端末側でほかに工夫した点は。

 Androidでは無線LANの認証時に3Gの通信ができなくなる仕様となっている。EAP-SIMで認証時間を短縮したとはいえ、無通信の期間はユーザーにとってストレスとなる。OSに手を入れ、認証が完了するまでは3Gで通信できるようにした。これは、現状のWeb認証でも有効だ。そもそもAndroidはEAP-SIM認証にも対応していない。端末側ではSIM情報を取得する機能なども必要になるので、ドライバーレベルでも改変を施してある。

 無線LANのアクセスポイント(AP)を集中管理するシステムとは別に、端末側の無線LANに関するパラメーターを集中管理できる仕組みも導入した。バックボーン上に無線LANの接続情報を管理するサーバーを用意し、端末から定期的にアクセスして更新する仕組みだ。機種別だけでなく、接続するAPの種類ごとに無線LAN関連のパラメーターを最適化できるようにしてある。