二輪車を中心に事業展開するヤマハ発動機。2011年12月期の売上高1兆2762億円のうち、実に9割が海外での売り上げによるものだ。国内市場の縮小に対して、新興国などに活路を求めた結果、他の製造業に先行してグローバル化が進んだ。さらなるグローバル化を推進する柳弘之社長に、その経営戦略や国内事業の位置付け、そして情報システムの役割を聞いた。

これまで国内工場の再編など構造改革を進めてきました。

1978年3月に東京大学工学部船舶工学科卒業、同年4月にヤマハ発動機入社。2000年4月にMC事業部製造統括部早出工場長兼森町工場長。01年7月に仏MBKインダストリー副社長、03年4月に同社社長。04年2月に印ヤマハ・モーター・インディア社長。06年1月にヤマハ発動機の中国事業部長兼中国事業部業務室長。07年3月に執行役員MC事業本部SyS統括部長。09年3月に上席執行役員生産本部長。10年3月より代表取締役社長 社長執行役員。1954年11月生まれの57歳。(写真:水川 尚由)

 3年目になりますが、いくつかの構造改革に取り組んできました。国内工場の再編成はその一つで、ほぼ計画通りに進んでいます。事業全体のコストダウンも推進しています。750億円の削減が3カ年の累計目標ですが、海外、特に欧米の先進国でダウンサイジングを進めてきました。

 持続的な成長も目指しています。ポイントは三つで、一つは事業規模拡大。為替の影響で随分目減りしましたが、売上高2兆円を目指します。二つめは財務力強化。成長を支えるバランスの良い投資を行っていこうというものです。

 三つめは企業力向上。これは基本的にグローバル化のことを指します。開発や設計、調達、生産など八つの機能を今以上にグローバル化していきます。今年は特に開発の現地化を推進します。生産はかなりグローバル化が進んでいますので、開発、さらには設計などの機能をどんどんグローバル化していきます。

 もともと欧州や中国など4カ所にR&D拠点がありますが、今アジア拠点を拡大しているところです。駐在員も多数送り込んでいます。この拠点はタイが本拠地なのですが、インドネシアにもそのサテライトを置き、両国でASEAN(東南アジア諸国連合)全体の製品開発に取り組む体制にします。

最終製品は現地開発を強化

(写真:水川 尚由)

国内の売り上げは全体の1割にすぎません。生産だけでなく開発なども海外へ出していくとなると、日本には何が残るのですか。

 日本は「マザー」と位置づけています。今回、開発において決めたすみ分けは、先行技術と技術戦略上重要な基盤技術は日本に残そうということです。それを可能にするには、製造と調達のベースも必要になります。ものづくりの基本として開発と製造、調達が一体でなければなりません。ですから最小限の生産機能、調達機能は日本に置いておく。これがマザー機能なのです。

 ただしマザー機能は最小限でよい。二輪車なら20万台。二輪車の年間生産台数は七百数万台ですが、そのうちの20万台を日本で造り、研究開発を維持するためのベースにしようというのが基本的な考え方です。

 一方、最終的な商品の多くは現地で造る。特に二輪車は生活密着型の乗り物ですから、各市場での適合性、鮮度、テイストが重要です。そのため開発も現地でやらせる。この考え方は他の製造業と一緒だと思いますよ。ただ我々のほうが、グローバル化に向けてのインフラ整備や、人事面での考え方などで先行しているわけです。

人事面のグローバル化でどんな取り組みを行っていますか。

 グループには持分法適用会社も含めると約100社あります。役員ポジションは300あり、6割を外国人が占めます。今後この比率を8割にまで高めます。社長・拠点長ポジションだと、外国人比率は22%ですが、50%に引き上げたい。その実現に向け、人材採用や育成を進めています。

 今年は、経営幹部委員会をつくりました。全世界で主要11社を選び、それらの企業の外国人役員に、委員会に加わってもらっています。目的は当社のグローバルなアジェンダを議論して、方針をつくることです。組織図に明確に位置づけ、きちんとした議論ができる場として制度化しました。