米IBMで、サーバー、ネットワーク、ストレージ、仮想化ソフトを統合したアプライアンスであるPureSystems事業を統括するジェイソン・ガートナー ヴァイスプレジデントが2012年10月に出荷を開始した新製品の出荷開始に合わせて来日。日経SYSTEMSの取材に応じた。ビッグデータを有効活用していくには、処理性能の高いシステムを簡単に構築する必要があると指摘する。

(聞き手は西村 崇=日経SYSTEMS


10月26日にデータ処理に特化したPureSystemsの新製品、IBM PureData Systemの出荷が始まりました。新製品を市場投入した狙いを聞かせてください。

米IBM ソフトウェア事業 PureSystemsプロダクトマネージャー ヴァイスプレジデント ジェイソン・ガートナー氏
米IBM ソフトウェア事業 PureSystemsプロダクトマネージャー ヴァイスプレジデント ジェイソン・ガートナー氏

 新製品は、ビッグデータを利用することによって出てきた新たな課題を解決するために投入しました。その課題とは、データ量が急増することや、データ処理速度を高めることなどです。

 データ量は、モバイル端末の普及やクラウドサービスの浸透などによってここ数年で急増してきました。ある調査では、この2年間で世界中のシステムで新たに作られて管理されるようになったデータの量は、3年前までに人類が作り上げてきたデータ量に匹敵するという結果が出ています。

 システムがビジネスで不可欠になってきたことで、企業内にある大量の取引データを高速に分析したり、ECシステムなどで企業が顧客とやり取りしたりするトランザクションデータをできるだけ早く処理したりすることが求められるようになってきました。そこでシンプルな操作で素早くシステムインフラを立ち上げられるよう、PureData Systemを投入しました。

新製品にはどのような特徴がありますか。

 あらかじめハードウエアやソフトウエアがシステムの基盤として組み合わされていることです。すでに設定やチューニングも済ませてありますから、すぐに仮想システム環境を構築できます。

 さらに当社や当社のパートナー企業では、稼働させるアプリケーションに適した構築済みの仮想システム環境、「パターン」を多数提供しています。PureData Systemの利用者は、そのパターンを配置することですぐに仮想システム環境を利用できます。

 例えば、BIソフトの「IBM Cognos」が動作するパターンをPureData Systemへ配置するのは30分ほどで済みます。この間に、WebサーバーやAPサーバー、レポーティング用サーバー、2台のDBサーバーという構成の仮想システム環境が立ち上がります。チューニングも済んだ形になっていますので、すぐに分析を始められます。

 またビッグデータ向けの新製品はトランザクション処理用、蓄積したデータ分析用、リアルタイムな不正検知アプリケーション用と3機種を提供しました。ひとくちにビッグデータといっても、高速なディスクI/Oが求められるもの、CPUを多く使うもの、大容量のメモリーが必要なものなど、用途に応じてシステム基盤に求められる要件は異なるからです。

簡単に仮想システム環境を利用できる統合機が普及していくと、システム開発に携わるITエンジニアの仕事はどのように変化するのでしょうか。

 一つには、よりビジネスに近い仕事を担うことが増えていくでしょう。例えば業務データを対象にしたBIシステムの構築プロジェクトではこれまで、ITエンジニアがプロジェクト全体期間の6割をシステム基盤の構築に充てて、データ分析のためのデータモデリングは4割程度の期間を割いていました。

 それが今後、システム基盤の構築にかける期間を減らせますから、データモデリングにプロジェクト全体の8割の期間を割けるようになります。ITエンジニアは「ビジネスチャンスをつかめるようなデータ分析をしたい」というユーザー企業の担当者のニーズを満たすことで、高い価値を生むシステムにしていくことができるでしょう。

システム基盤の構築を得意とするITエンジニアの出番は今後なくなってしまうのでしょうか。

 システム基盤に強いエンジニアが不要になるかというと、決してそうではありません。基盤に強いエンジニアの仕事はたくさんあるからです。

 最近気づいたのですが、データセンターで稼働しているシステムの災害対策や、緊急時に対応するためのシステムは十分とはいえない状況にあります。これまでシステム基盤の構築に時間を割くことが必要だったので、災害対策や緊急時対応が十分にできなかったからでしょう。そういった問題の解決に、基盤に強いITエンジニアの力は欠かせません。