地球環境などに配慮した商品開発により、小売業のなかで独自の地位を占める良品計画。海外でも評価される「MUJI」のブランド力を武器に、アジア、特に中国での事業展開を加速させている。「国内市場が伸びることはもうない」と断言する金井政明社長は、海外展開だけでなく国内事業の安定成長に向けた施策を打つ。その事業戦略とIT活用の勘所を聞いた。

9期連続で増収を達成するなど業績は好調ですね。

1976年4月に西友ストアー長野(現・西友)に入社。93年9月に良品計画に入社。97年3月に無印良品事業本部商品事業部生活雑貨部長、99年9月に営業本部生活雑貨部長。2000年5月に取締役に就任。01年1月に常務取締役営業本部長。同年3月にMUJI(HONG KONG)CO., LTD.取締役、03年1月にMUJI(SINGAPORE)PRIVATE LTD.取締役。同年5月に代表取締役専務取締役(兼)執行役員に就任。08年2月より代表取締役社長(兼)執行役員。1957年10月生れの54歳。(写真:栗原 克己)

 2014年2月期に売上高2000億円、経常利益200億円を目指していますが、12年2月期はこのレールに乗ったものでしたし、13年3月期も同じような状況です。

 やはり海外、特にアジアが伸びており、成長のエンジンは海外ということが当たり前になってきました。そうしたなかで、国内事業を安定成長させることが極めて大事だと考えています。

 国内の既存店舗が恒常的に成長する仕組みを実現しないといけません。特に、一番売り上げの大きい生活雑貨部門を再建することが、大きな課題です。

 商品面だけではなく会社全体の課題だ、と私は言っています。例えば、顧客が期待している以上の“ソリューション”を提案できるように、販売力や物流力などを強化していく。つまり、全社的な仕組みを作っていくことが大切なのです。

国内で新しい需要を創る

(写真:栗原 克己)

国内事業の成長に向けて、どのような施策を打つのですか。

 国内市場が伸びることはもうありません。一人当たりの賃金が下がっていますし、絶対的な労働人口も減っていきます。ざっくり言えば、総収入のマイナス分だけ小売り総額が落ちるのが全体の基調です。従来の商品提案だけではこうしたトレンドに流されていくしかない。大事なことは新しい需要をどう創り出すかです。

 2050年には日本の人口は1950年のレベルにまで減少します。これは住宅環境を改善していく好機で、一人当たりの住宅の面積は広がるし、緑だってもっと増やせます。ですから、日本人も画一的な暮らし方をやめて、時間をかけて身の回りに自分の好きな物を集めていくといった意識を持ったほうがよい。我々としては、そうした新たな需要を創りたいわけです。

先ほど「生活雑貨の再建」とおっしゃっていましたが、具体的にはどういうことですか。

 実際は、そこまでではありません。「再建」という強い言葉を使っている意味合いは、従来のように良い商品を作って売っているだけでは済まないよ、ということなのです。再建とはビジネスの構造を変えるという意味であり、全社で取り組むということです。単に個々のスキルを高めるだけでなく、そのための仕組みを作っていかなければなりません。

 例えばシェルフ(棚)では、顧客宅の壁のサイズにぴったり合わせて設置するようなことを行っています。商品自体は中国で造って店頭で売っているものですので、通常80万~100万円もかかるのが25万円でできてしまう。これには顧客も驚くわけです。これは単なる販売やお届けではないですよね。実現するには、配送業者などとの契約から仕事のやり方まで全部変えなければなりません。

個々の商品開発では、これまでの方針は変わりませんか。

 自分たちがこだわりを持ち、顧客にも共感、納得を得られるような商品を開発してきました。麻や木綿を使った商品では、生産者のことまで考えたり、素材を全てムダにしないようにしたりしています。「そんなことは関係ない。安いほうがよい」と言う人は我々の顧客ではない。我々の理念や価値感を妥協することなく追求していけば、厳しいけれど世界中に共感してくれる顧客はいるはずです。

そうした理念や価値感を、顧客にうまく提示することに成功している印象がありますが。

 まだまだです。ただ、我々が言ってきたことが認められる世の中になってきたのは確かです。生産者や環境に配慮するということで、常に時代の一歩先を行くというブランドコンセプトは、確立してきたと思います。実は、こうしたコンセプトはソーシャルメディアを活用したマーケティングと相性が良いのです。それらを活用した顧客とのコミュニケーションに大きな可能性を感じています。

ネットストアも強化するとのことですが、どのような位置付けで取り組んでいるのですか。

 単純なeコマースでは仕方がないと思っています。重要なのは、顧客とのコミュニケーションや店舗などの情報の提供です。サイトを見に来た顧客が、結果としてネットストアで買うといった形でなければ、eコマースも成功しないでしょう。ですから、ソーシャルメディアなども活用したWebマーケティングの一環として、eコマースも位置付けています。