「グローバル・ネットワーク・デリバリー・モデル」と呼ぶ、インドを拠点とするグローバルアウトソーシングで世界の大手IT企業に成長したタタ コンサルタンシー サービシズ(TCS)。苦戦が続く日本でも、三菱商事との合弁会社を1月に設立し、攻勢をかけようとしている。チャンドラセカランCEOに日本攻略への意気込みとグローバル戦略を聞いた。

日本で三菱商事と合弁会社を設立した狙いは何ですか。

1986年にインド タミルナドゥ州トリッチーのリージョナルエンジニアリングカレッジでコンピュータアプリケーションの修士号を取得。87年にタタ コンサルタンシー サービシズに入社。2002年にグローバルセールス部門責任者に就任し、グローバル戦略の立案と実行を担う。COO(最高執行責任者)を経て、09年10月より現職。1963年生まれ。(写真:陶山 勉)

 TCSは今や売上高で100億ドルを突破し、世界の主要市場で存在感を示すまでになりました。にもかかわらず、世界第2位のIT市場であり、多数の大企業が存在する日本では、まだまだ売り上げが小さい。

 今や我々は世界で十分な規模とコンピテンシーを持ち、様々な産業ごとにナレッジも蓄積しています。ここで三菱商事とパートナーシップを組み、我々が持っているそうした力と、三菱商事が持つ日本でのノウハウなどを組み合わせることによって、日本の大企業に安心して使ってもらえる。そう判断したのです。


日本市場の開拓に強い決意

日本に進出して四半世紀ですが、25年もかけてどうして実績を上げられなかったのですか。

 いくつかの要因があると思います。日本に進出したとき、我々は今と比べても極めて小規模でしかなく、大企業向けのビジネスは厳しい状況でした。日本がユニークな市場であるということも否めません。開拓に向け長期的にいろいろな施策を打っていかなければならなかったことも確かです。

 でも、ようやく日本でのビジネスを拡大するタイミングにきていると思います。なぜなら日本にも今、グローバル化の波が押し寄せており、標準化、最適化が進んでいるからです。グローバル化や標準化などへの対応は、全て我々が提供できるサービスです。従って数年前に比べ、日本での事業展開に勢いがついてきたと言えます。

(写真:栗原 克己)

富士通、NTTデータなど日本のITベンダーもグローバル化に向けて動き出しており、米IBMや米アクセンチュアも日本で大きなプレゼンスを持っています。差異化できますか。

 TCSの優位点はまず、世界の大企業と長期的な関係を築いて仕事をしてきたことです。顧客がグローバル化する際に標準化や最適化を支援してきた長い歴史があります。二つめの優位点はクオリティー。つまり、いろいろな産業でのナレッジや先駆者としての実績、技術力があることです。

 今回、三菱商事とパートナーシップを組んだことで、我々が日本市場に対して強い決意を持って臨んでいることも示せたと思います。我々は今後4~5年の間に、年間の売上高で5億ドルの規模を目指します。

三菱商事との合弁で、今後どのようなサービスを日本企業に提供するつもりですか。

 非常に包括的な内容を考えています。基幹系システム向けの各種サービスや、アナリティクス、モビリティー、ビッグデータ、アシュアランス&テストなどグローバルで提供してきたことを、日本で生かしていきたい。その際、三菱商事の強力なブランドが、我々が越えられなかった言語や文化、顧客とのリレーションのギャップを埋めてくれるものと期待しています。

昨年、日本のITベンダーを買収すると発言しましたが、今でも同じ考えですか。

 具体的な目標があるわけではありません。我々は内部成長を目指しており、それが優先です。ただ、もしチャンスがあったり、必要性が出てきたりすれば、買収を考えるという立場は変わりません。

三菱商事も出資するコンサルティング会社のシグマクシスを、御社が買収したがっているとの話もありましたが。

 三菱商事と提携について話し合ったときには、その話は出ていません。ただ今後、シグマクシスとTCSの強みを組み合わせるなど、いろいろな展開の可能性はあると思います。